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心不全そして心房細動との合併は

心不全とは、なんらかの心臓機能障害、すなわち心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心臓のポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群と定義されておりこれは以前にも記しました。そして近年社会の高齢化に伴い、心不全は世界中で増加しており(日本では2020年には120万人に達すると推計されている)心不全パンデミック(大流行)と呼ぶべき事態となっています。

心不全の原因疾患としては虚血性心疾患が最多であり、高血圧と弁膜症がそれに続きますが不整脈による心不全も多いことが知られています。今回は心不全に合併する最も多い不整脈の1つである心房細動との関係を考えてみます。心房細動(AF)はそれにより心機能や血液の流れる動態に悪影響を及ぼすことが知られており、心不全を悪化させます。一方、心不全は神経、体液性因子など種々な変化によりAFをひき起こします。心不全の重症度が高いほどAFの合併率は高く、つまり心不全とAFは互いに原因にも結果にもなり、悪循環を形成しうる密接な関係にあります。

実際、AFが心不全患者さんにおいて予後不良因子であり、逆にAF患者さんにおいて、心不全は重要な臨床経過の1つであることが明らかになっています。AF患者さんにおいて適切な薬物療法がされている場合において、死亡以外の心血管事象で最も多いのは脳梗塞/脳出血ではなく、心不全による入院との報告があり、またAF患者さんの心血管死亡の最大要因は心不全であるとの世界的規模の研究報告は現在広く認知されています。以上のように心不全とAFは密接に関係しており、そのため両者の合併には適切な治療が患者さんのために必要となります。この場合まず心不全および背景にある心血管疾患に対する適切な治療と脳梗塞予防のために投薬を我々医師がおこない、その後にAFに対する治療を考えることになります。心不全はその状態が急に出現した急性心不全と以前より心不全状態が存在した慢性心不全によりAFの加療は異なります。急性心不全時にAFを発症された場合、AF自体が増悪に関与する可能性が高く、速やかに薬物の服用(あるいは血管内への投与)をしてもらい、心拍数の安定化および心不全の軽快をめざします。そしてその後にAFに対する治療をしていただくようになります。このAFの治療は慢性心不全にAFが合併する場合と同様になります。慢性心不全期の場合、合併するAFが1年以上続いている永続性の場合、服薬により心拍数をコントロールされることになります。発作性にAFが生じた場合や、1年未満のAFの罹患歴の患者さんには、その背景要因にもよりますが、近年の体の血管内にカテーテルを入れて、AFを正常の心臓の拍動にもどすカテーテルアブレーションという治療が広く行われています。(海外ではカテーテルを体内にいれず放射線治療により不整脈に対して有効な治療結果を得たという報告もありますが)このカテーテルアブレーションによるAF治療は服薬によるAF治療よりも患者さんの運動能力の改善、心機能の改善そして生活の質(QOL)の向上も得られる(正常の心臓の拍動が続いた場合)という報告が多数あり、患者さんの予後の改善効果が証明されています。そのためカテーテルアブレーションを心不全(心臓の機能の低下した)を合併する心房細動に罹患されている患者さんにうけていただくことは不整脈治療を行なう学会において広く推奨されています。そしてこれをされる患者さんも非常に増加しています。ただしカテーテルアブレーションにも限界があります。心不全は近年心機能の維持された心不全に多く出現することがわかっています。カテーテルアブレーションの生命予後の改善効果が確認されているのは、心機能の低下した心不全の患者さんに対してのみであり、心機能の維持された心不全の患者さんに対するその効果は明らかではありません。症状の緩和、QOLの改善は認められますが。またカテーテルアブレーションを行った後のAFの再発率も決して低くはありません。このことはAFの根治は困難ということを表しています。この場合、心房細動の出現時間が短かく正常の心臓の拍動の時間が長ければ生命予後に対してはよいという報告があります。しかしながら、いづれにしてもカテーテルアブレーションを行うと生命予後を改善される患者さんが多いことは明らかであり、心不全合併AF患者さんの治療方針は大きく変化しつつあります。

以上、心不全とAFに関して記載しました。心不全合併AF患者さんの治療方針は大きく変化しています。社会の高齢化と伴にこれらに罹患される患者さんは増加していくと思われます。そして治療法も限界はありますが進歩しています。今後の発展が望まれます。

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