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心不全と貧血

貧血が心不全の人に合併することは広く知られるようになっています。貧血診断基準(WHO)(ヘモグロビン濃度:男性13g/dl未満、女性は12g/dl未満)からみると心不全患者さんの貧血合併率は慢性心不全で約30%、急性非代償性心不全で約50%と報告されています。心不全患者さんで貧血を合併している人は、合併していない人に比べ、高齢、女性、糖尿病、慢性腎臓病を合併していることが多く、心機能は重症度が高く、また低栄養、低アルグミン血症を合併していることが多いことが報告されています。

臨床的には貧血を合併している人は、していない人とくらべ、全死亡や心不全の再入院率が高く、貧血は心不全の人の強い予後規定因子であることが明らかにされています。この貧血の原因については、血液の希釈、骨髄の造血能の低下、慢性腎臓病合併によるエリスロポエチンの生成低下、鉄欠乏などいろいろな因子の関係が考えられていますが、最近注目されているのは鉄欠乏です。

鉄欠乏は赤血球や各種臓器に利用される鉄だけでなく、体内の貯蔵鉄まで減少した絶対的鉄欠乏と体内の貯蔵鉄は保たれている機能的鉄欠乏があります。たとえば慢性疾患の炎症に伴う貧血は貯蔵鉄は保持されており機能的鉄欠乏になります。鉄欠乏の診断には以前のWebでも記載しましたが、貯蔵鉄の指標として血中フェリチン濃度が用いられます。これは体内で鉄欠乏が進行すると、最初に貯蔵鉄が減少し、次に血中の鉄濃度が減少し、最後にヘモグロビン濃度が減少するからであり、したがって血中フェリチン濃度が最も鋭敏な鉄欠乏の指標となるのです。しかし心不全には慢性炎症の病態が関与することがしばしばあり、慢性炎症は上記にも記したように貯蔵鉄は保持されるため、血中フェリチン濃度は減少しません。この場合、我々はトランスフェリン飽和度を用いて鉄欠乏を診断します。この心不全患者さんの鉄欠乏の診断基準は以下となります。
血中フェリチン濃度100μg/l未満、あるいは血中フェリチン濃度100〜299μg/lかつトランスフェリン飽和度20%未満。
この鉄欠乏の診断基準を用いると慢性心不全患者さんの約50%、急性非代償性心不全患者さんの70%が鉄欠乏を合併していると疫学研究では示されています。そして冒頭にも記したように絶対的・機能的鉄欠乏を合併している心不全患者さんは、合併していない患者さんに比べ生存率は低いことが示されており、心不全患者さんの鉄欠乏(そして貧血)の管理は予後の改善に寄与する可能性が強く考えられるのです。

では、貧血・鉄欠乏をどう管理すべきかについては以下のようなことがおこなわれています。概略を記しますと、○赤血球の輸血(妥当性が報告されている)○赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与(大規模な研究で心不全に対する改善効果が示されず、また血栓塞栓症の発症の合併が報告されたため現在では推奨されていない)○鉄剤の静注(海外での報告では、心不全の症状改善、入院の減少などが示されているが、使用されている鉄剤は現時点では日本には未導入である)などです。
なお経口鉄剤の投与については心不全の改善効果は示されていません。しかしこれらはまだ研究途中のものであり、心不全の改善にむけた治療の進歩が望まれます。

以上、心不全と貧血(鉄欠乏)について記しました。両者は合併することはしばしばあり、その管理は大切です。

参考にし、また気に留めておいて下さい。

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