お知らせ

糖尿病性神経障害とは

糖尿病性神経障害は最も多い糖尿病併発症のひとつであり当院にもそれを併発した人は多く見受けられます。診断にあたっては糖尿病以外の疾患による、末梢神経障害を除外する必要があります。これにはアルコール摂取量の過多、胃切除の既往、甲状腺機能の低下などにより末梢神経障害を生ずることがあるからです。糖尿病性神経障害は、遠位性対象性の多発神経障害と局所性の単神経障害に分けられます。前者は頻度が高く、感覚、運動神経障害と自律神経障害を含んでいます。感覚・運動神経障害では、発症早期に下肢末端に、自発痛、しびれ感、錯覚感、感覚鈍麻などの感覚異常が出現し、症状が上行するとともに、上肢末端にも症状が現れます。しびれも含めた疼痛がある場合は、有痛性糖尿病性神経障害と診断し、疼痛管理もおこなわれるようになります。いずれにしてもしびれを含む知覚の低下や疼痛などは生活の質(QOL)を低下させます。自律神経障害は起立性低血圧、心臓神経の障害(突然死、無痛性心筋梗塞)、発汗異常、消化管の運動障害(便秘、下痢)、膀胱の機能障害、勃起障害など多彩な症状があり、その出現によりQOLはいちじるしく損なわれます。局所性の単神経障害には脳神経障害(特に外眼筋麻痺)、体幹・四肢の神経障害などがあります。ではこれらの糖尿病による神経障害の発症と進行のリスクファクターは何でしょうか。それに対しては@血糖値のコントロールの不良A糖尿病の罹病期間B高血圧C脂質の異常D喫煙E肥満などがあげられています。これはT型、U型糖尿病患者さんに対する種々の研究で明らかになっています。
特にU型糖尿病においては神経障害の発症・進行に関する最も重要なファクターは血糖のコントロール不良とされており、それに糖尿病罹病期間の長期化が加わり増加していくのです。それならば血糖のコントロールを良好にすれば発症・進行を抑制することはできるのでしょうか。そのとおりです。海外・日本でおこなわれた研究においてHbA1c(血糖の1〜2ヶ月前からのコントロール状況を表わす)を厳格(HbA1c約7%)にコントロールした人ではそうでない人(HbA1c約9%)にくらべ神経障害の発症・進行が抑制されたことが明らかになっています。したがって血糖コントロールを良好にし、そしてそれをできる限り維持することが大切なのです。糖尿病性神経障害の発症・進行抑制に血糖コントロールが大事なことはわかられたと思いますが薬物療法はいかがかを考えてみます。残念ながら発症した神経障害を治しうる薬剤はありません。糖尿病性神経障害にたいして、その発症機構を抑制する薬を私も使用することはしばしばあります。しかしながらこの薬は神経障害が中等度以下で罹病期間が3年以内の人に有効ということであり、(すなわち進行抑制効果がある、)重症、罹病期間の長い人には多くの場合効果はありません。疼痛の有痛性神経障害の人には血糖のコントロールと生活習慣の改善に加え、症状の緩和のために薬物療法が必要となります。しかし、軽症、中等症以上の疼痛をもつ人に対する薬はそれなりにランクアップされていますが、完全な症状・消失は困難なことがしばしばあり、医療用の麻薬(オピオイド)を使用していただくこともありうります。この厄介な神経障害は糖尿病による網膜症(緑内障の次の失明の原因となる)、糖尿病性腎経(人工透析の原因の一番目)のリスクファクターであることは明らかとなっています。したがって糖尿病の人は血糖のコントロール及び上記にあげたリスクファクターを改善し、神経障害を始めとする合併症が発症しないように真摯に糖尿病に対する治療にむきあっていただくよう御願いします。

お知らせの一覧を見る