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特発性冠動脈解離とは

急性冠症候群(ACS)は不安定狭心症、急性心筋梗塞、心臓突然死を示す病態として定義されており、以前にWebで説明しました。不安定狭心症、急性心筋梗塞は冠動脈粥腫(プラーク)の破続とそれに伴う血栓形成により冠動脈の高度の狭窄または閉塞をきたすことにより生じる病態とされています。

今回はそれとは別の機序によりACSの原因となる特発性冠動脈解離(SCAD)について説明します。SCADは前記の動脈硬化より生じるACSが中高齢者(特に男性)に多く発症するのとは異なり、50歳以下の若年女性に多く発症する稀な疾患です。欧米からはACSの0.07%〜1.1%の頻度と報告されています。わが国においては急性心筋梗塞患者さんの約0.3%に認められ、平均年齢は46歳、女性が94%認められるとの報告があります。冠動脈の動脈硬化の危険因子となる高血圧、糖尿病、脂質異常症等をほとんどの人が患っていないことも重要な特徴です。冠動脈の線維筋異形成という壁の異常を併存している人が多いことが報告されています。SCADの発症の誘発因子としては妊娠(特に後期から産褥期)、ホルモン療法による治療、感情的ストレスが多いとされています。冠動脈の解離は内膜と中膜の間におこることが多いのですが、SCAD発症時冠動脈造影で解離を確認できる人は25%〜43%であり55%〜70%の人は解離所見が明らかでなく、冠動脈の滑らかな狭窄所見のみが認められるとの報告があります。これは冠動脈造影を行ないそれにもとづいて治療を施行する医師にとっても慎重な判断が求められるものです。診断にいたった場合、多くの場合、冠動脈拡張などの血管内治療の薬物を使用した保存的治療に対する有効性はしめされていません。したがって保存的治療をSCADを発症した人に行なうことが多いようです。

SCADの問題点の一つに、再発率が高いことがあげられています。発症後5年間経過を追跡すると27%の人に再び解離が発生し、そのうちの42%の人は30日以内に発生していると報告されています。(ある種の薬により再解離を減少させる可能性は示唆されている)

以上、稀な病気ではあるもののACSの原因となり知っておいていただきたい(特に若年の女性の方)SCADについて概略を説明しました。

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