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妊娠高血圧症候群

女性が妊娠時に高血圧(医療機関などでの外来血圧140/90mmHg以上)を認めた場合は、妊娠高血圧症候群(HDP)の診断になります。妊娠高血圧症候群は妊娠高血圧腎症(PE)、妊娠高血圧(GH)、加重型妊娠高血圧腎症(SPE)、高血圧合併妊娠(CH)に分類されます。今回はGH、CHについて説明します。GHは妊娠20週以降に初めて血圧が140mmHg以上/あるいはかつ/90mmHg以上になり、そしてそれが分娩後12週までに正常に復する場合とされています。正常では妊娠中は血圧は妊娠直後から下降しはじめ、20週を過ぎるころには少しずつ上昇し、分娩前の35週ころにはほぼ妊娠前の血圧にもどります。しかしHDPでは20週ころより血圧の上昇がみられます。GHの診断は現在医療機関での外来血圧の基準にそっておこないますが、GHにおいても当然白衣高血圧や仮面高血圧は存在します。そのため家庭血圧の測定は重要で、その場合135/85mmHgを超えた場合に高血圧と診断します。GHにおいては明確な治療開始レベルの血圧値は記載されていません。それは重症度(血圧の)が高くなると母体の臓器障害を招きうる一方で過度な血圧低下は胎児胎盤循環の低下から胎児機能不全を招く恐れがあるからです。
2014年の報告では降圧薬の服用による母体の死亡、子癇、胎児/新生児の死亡、流産、低出生体重などのすべての項目に対する検討で有意な影響はないことが示されています。それをふまえ、GHでは重症高血圧(160/以上かつあるいは/110mmHg以上)ではない場合、降圧薬の服用による有効性は少ないと考えられています。CHは現在どのような降圧治療をうけていただくのか、また降圧の目標をどこに置くのかなどの明確な十分な成績が示されていなく、今後の課題の多いのが現状です。ただし、CHはPEの発症が8倍以上となる可能性は示されています。またGH、CHにおいても重症高血圧では脳血管、心、腎臓などの母体臓器障害が起こりうるため、速やかな降圧薬服用による血圧低下は必要です。したがって現時点ではGH、CHは重症高血圧の基準を越える場合に降圧薬服用療法の適応との考えが妥当とされています。ただし子癇発症の前駆症状がある場合は速やかな降圧薬服用が必要です。また妊娠あるいは産褥女性に180mmHg/以上あるいはかつ/120mmHg以上が認められた場合は高血圧緊急症との診断になり、ただちに降圧薬の服用を開始していただき、迅速に血圧を低下させる必要があります。血圧の降圧目標に関しては前記の如くで、母体および児の状況から判断し、産科医との密接な連携をすべきとされています。160/110mmHg未満がよいとされていますがどこまで降圧すべきは上記となります。
降圧薬に関しては、一般に使われ、臓器障害の予防、予後などによいとされている薬には児の催奇形性があるものがあり、CH、GHに服薬していただくことが可能な薬は多くはありません。
したがって結婚前あるいは子供の誕生を希望される人はその旨を医師に伝えていただくことは必須です。また、血圧を担当する我々循環器医も妊娠20週以降は児の娩出のこともあり産科医にゆだねるようになります。
以上、妊娠高血圧症候群について概説しました。

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