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高齢者の脂質異常症とその治療効果は

加齢は動脈硬化性疾患の重要なリスク因子であり、高齢者のほうが成人にくらべ動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳血管障害など)のリスクが高く、しかもそれらを発症したあとの予後も不良であり、要介護状態となることも多くなります。加齢は他の心血管疾患発症リスクより強力なため(最も強い危険因子とされている)脂質異常症などの危険因子の寄与は相対的に少なくなります。しかし危険因子の管理をおろそかにしてよいということではありません。成人と同じく前期高齢者(65〜74才)では高LDLーコレステロール血症が冠動脈疾患の危険因子であることは明らかとなっています。(欧来の疫学調査)
一方75歳以上の高齢者ではLDLーコレステロールと冠動脈疾患発症リスクには関連性を認めないとの報告はありますが、日本を始めとする多くの報告では冠動脈疾患(冠動脈疾患死を含む)とLDLーコレステロールには有意な相関が認められています。(脳血管障害との関連は認めなかったとの報告は多い)
85歳以上の超高齢者においては対象とする研究は少ないもののLDLーコレステロールが心血管イベントのリスクとはならないとの報告があります。では薬物によるLDLーコレステロール低下療法による上記動脈硬化性疾患の予防効果を考察します。脳心血管障害発症後の人への投薬による再発予防(二次予防という)では効果は明らかとされており、ある報告では冠動脈疾患死を23%、致死性・非致死性心筋梗塞を26%、致死性・非致死性脳卒中を24%減少させたとしています。これらを含め多くの報告により65歳以上の高齢者を対象にした二次予防の研究で、冠動脈疾患(死)リスクは若年者での研究から推測しうる以上に低下させるとされています。脳卒中の二次予防でも投薬により発症が67%減少したとの報告もあり、脳卒中(アテローム血栓性脳梗塞)の再発抑制効果を有すると示唆されています。前期高齢者の一次予防(脳心血管障害を発症してない人の予防)に関しては冠動脈疾患、脳梗塞、死亡に対する投薬によるリスク低下は確立されており、発症リスクに応じた薬物療法を行うことは推奨されています。ただ後期高齢者における一次予防については研究報告が少なく確立された推奨はありません。したがって他の動脈硬化性疾患のリスクやフレイル、サルコペニアなどの老年症候群の合併などを考え、われわれ医師が患者さんと相談して投薬すべきか否かを決定することになります。
人生の終末期をむかえられた人(生命予後が1年以内と想定される人)に対しては投薬を中止することによりQOLの向上につながることが期待されます。(中止により死亡、心血管イベントの増加はなく、また投薬による心血管イベントの抑制効果が示されるのには3〜4年かかると考えられている)

以上高齢者の動脈硬化性心疾患を予防しQOLを保つために、重要な危険因子である脂質異常症(高LDLーコレステロール血症)の管理は重要です。しかし高齢者では動脈硬化性疾患以外の生命予後に影響する複数の疾患の併存や身体機能の多様性があるため、服薬していただくためには配慮が必要となります。脂質異常症の治療の基本は成人同様食事療法、運動療法でありそれをふまえての薬物療法となります。しかし厳格な食事療法は後期高齢者では栄養状態の悪化を招くことがあり、運動療法も成人と同等の運動は困難なことが多くあり、難しい側面をお持ちです。したがってわれわれ医師としては上記のことに細心の注意を払いながら加療させていただくべきと考えます。

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