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肺血栓塞栓症(急性を主として)

肺血栓塞栓症(PTE)は以前Webで紹介した深部静脈血栓症(DVT)と一連の病態であり、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称されます。PTEは肺動脈が血栓閉栓子により閉塞する疾患で、その塞栓の約90%は下肢あるいは骨盤内の静脈で形成された血栓です。PTEは大きく急性PTEと慢性のPTEに分けられます。急性PTEは新鮮血栓が塞栓子として肺動脈を閉塞する病態です。慢性PTEは器質化種栓により肺動脈が狭窄、閉塞することにより発症し、その中で多くの肺動脈に病変があり、その結果、肺高血圧症を合併し、労作時の息切れなどの症状を呈するものは慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEVH)といいます。今回は上記のうち急性PTEについて説明します。

急性PTEにおいて塞栓子により肺の組織が壊死に陥ると肺梗塞(出血性梗塞)と呼ばれ、急性PTEの約10〜15%に合併します。肺梗塞は心不全の合併と強い関連があると報告されており、胸痛、発熱、血痰などの症状を呈します。また下肢のDVTで大きな血栓が形成され、それが遊離して塞栓化し、肺の血管床(肺動脈)を大きく閉塞した場合には、ショック状態や突然死に至る可能性があります。急性PTEの主たる病態は急速に出現する肺高血圧(肺血管床の約60%以上が閉塞すると生じるとされている)や酸素濃度の低下(低酸素血症)です。(低酸素血症も肺血流の低下による種々の原因で生じると考えられている)急性PTEを生じる危険因子はVTEの危険因子と同じで、長期臥床、肥満、妊娠、3ヶ月以内の手術や外傷、ギブス固定、長時間の座位(旅行・災害等)、悪性腫瘍の罹患、薬物その他など様々存在します。長時間の旅行はエコノミークラス症候群と呼称されていますが、航空機に限らず、自動車、列車、船舶などでも起こりうることより、旅行者血栓症とよばれるようになっています。VTEは欧来では虚血性心疾患、肺血管疾患の次にくる3大致死的血管疾患と認識されています。一方わが国においては2006年のPTEの発症数は米国とくらべ約8分の1であり認知度はあまり高くありませんでした。しかし人口の高齢化や診断率の向上により、発症頻度は確実に増加してきているとされています。なおPTEはわが国においてはその発症は男性より女性に多く、60歳代から70歳代にピークを有していると報告されています。急性PTEの生命予後は、その死亡率は14%で、心臓が原因のショックを呈した人では死亡率は30%、ショックを呈さなかった人は6%と報告されています。この場合、早期に診断、適切な治療をされることで死亡率は2〜8%まで低下するとされており、その重要性が強調されます。なおPTEの死亡の危険険因としては70歳以上の高齢者、癌、COPD、心不全、低血圧、頻脈などが報告されています。急性PTEの診断は根拠となる特異的な症状はありませんが、代表的な症状は呼吸困難、胸痛、頻呼吸であり、PTEの約97%の人でそのいずれかの症状がみとめられています。また失神も重要な症候であり、その他咳漱、血痰、動悸、喘鳴、冷感、不安感がみとめられることもあります。

これらの症状の特徴的な発症状況としては、安静解除後の歩行時、排便、排尿時、体位変換時などがあります。急性PTEの診断は胸部X線写真・心電図、心臓超音波検査、血液学的検査、CT(造影剤を用いたものが主)、MRIなどによっておこなわれます。(発生部位診断まで)。急性PTEの治療はその重症度により、補助循環装置を使い心臓カテーテルから薬物投与をおこなうあるいは外科的に血栓を摘除をする(心停止をきたした人に多い)場合から経口での薬物投与をおこなう(軽症の人)場合まで、その人の状態を考慮した治療が迅速におこなわれます。

以上、急性PTEを主としてその概説をしました。
肺静脈血栓症は少ないとはいえ、確実に増加しています。体調を留意される人がふえるなか、知られておくべき疾患です。

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