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慢性冠症候群 そのリスク管理は?

慢性的な冠動脈の器質的な狭窄により心外膜を走行する冠動脈の血流が阻害されて生じる疾患は従来安定冠動脈疾患と呼ばれていました。しかしこの疾患は必ずしも安定しておらず、心筋梗塞などの急性冠症候群へ発展する可能性があることより、慢性冠症候群(CCS)と呼ばれるようになっています。CCSを有する人は、心血管イベントの再発リスクが高く、生活、運動習慣、食事療法、薬物療法などの修正、介入が重要となります。また疫学研究より高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、慢性腎臓病(CKD)などは動脈硬化進展や心血管事故発症のリスクであり、その重複により心血管イベントリスクが高まることより包括的なリスク管理は重要となります。そしてその良好な管理により長期的な生命予後が軽快することが報告されています。今回はこれらの病態のリスク管理について説明します。高血圧はWeb上で何度も説明しましたが、冠動脈疾患や脳血管疾患の重要な危険因子です。わが国の研究では正常血圧(120/80mmHg未満)を超えて血圧が高くなればその上昇に相関して心血管死亡リスクが上昇することが示されています。一方降圧目標値は脳卒中、心筋梗塞、心血管死などの発生率を有意に低下させるため、CCSを有する高血圧の人は130/80mmHg未満に設定されています。糖尿病は脳卒中や心血管疾患のリスクを約2〜4倍に上昇させます。またHbAlcが1%上昇すると心血管イベントの発生率が18%上昇することが示されています。すなわち血糖上昇に伴い心血管イベントが増加することに基づき、血糖低下による大血管障害の発症抑制が期待されています。実際低血糖を回避した早期からの血糖管理により長期間の合併症発症や死亡が減少することも報告されています。(遺産効果といわれている)したがって合併症予防の観点から糖尿病の人はHbAlc7.0%未満を目標値として目指すことが求められています。脂質異常症においてはLDLコレステロールについて多くの研究報告があります。それらによるとLDLコレステロール値80mg/dl未満を対照とすると80〜99mg/dlの群では1.35倍、180〜119mg/dlでは1.66倍、120〜199mg/dlでは2.15倍、140mg/dl以上の群では2.8倍冠動脈疾患の発症が増加したとの報告があります。したがって我が国では冠動脈疾患の既応のある人の再発予防のLDLコレステロール管理目標値は少なくとも100mg/dl未満としており、急性冠症候群、脳卒中既応などの高リスクの人は70mg/dl未満の厳格な目標値が推奨されています。中性脂肪についてもその上昇(空腹時、非空腹時にかかわらず)は冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが知られており、その管理は重要です。CKDは動脈硬化性疾患の重要な危険因子です。推算糸球体濾過量(eGFR)60ml/分/1.73u未満の人ではeGFRの低下に伴い、総死亡や心血管疾患の発症リスクが増加することが明らかにされています。また透析患者さんの死亡率は腎疾患のない人と比較すると40倍高く、またその死亡の50%以上が心血管疾患に起因することも大きな特徴です。CKDの人は高血圧や糖尿病を基礎疾患とすることが多く、そのため薬物を用いた進行抑制を含め包括的なリスク管理が必要なことは明らかです。喫煙は受動喫煙も含め心血管疾患の独立した危険因子であることは明らかです。そして禁煙が心血管疾患を有意に抑制することも明らかにされています。急性心筋梗塞患者さんにおいて禁煙者は非禁煙者と比べて総死亡リスクが61%低かったとの報告があります。またCCS患者さんでも禁煙は死亡のリスクを36%低下させたと報告されています。したがって禁煙は他の危険因子に対するリスク管理に優るとも劣らないことを認識しておく必要があります。
以上、包括的リスク管理について代表的なものについて説明しました。CCS患者さんのさらなる追加危険因子として、家族歴、尿酸、閉塞型睡眠時無呼吸、心理的、社会的側面、生活習慣などがあげられています。
たとえば家族歴では心筋梗塞の家族歴がある人はない人とくらべその発症数は約2倍であり、尿酸値や睡眠時無呼吸は冠動脈疾患などの動脈硬化性心疾患の発症との関連が強く考えられる。
また心筋梗塞後に抑うつ症状を有する人は1年以内に心血管イベントを再発するリスクが高い。
中等度以上のウォーキングなどの有酸素運動を週に5日以上(1回につき計30分以上)することが望まれ、アルコールの過剰摂取(1日につき25g以上)を抑えるなどです。
以上今回はCCSを有する人のリスクの包括的管理について説明しました。

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