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肥満と心血管疾患  肥満パラドックス

肥満(特に内臓脂肪の蓄積)があると冠動脈疾患や脳卒中(特に脳梗壁)が増加すると言われています。しかし、高齢者においては適切と考えられているレベルより高いBMI(体格指数)で死亡するリスクが低下する現象が見られます。また高齢者だけでなく色々な疾患(高血圧、冠動脈疾患、心不全など)を有する人でも観察されます。このことは、肥満が高血圧、心血管疾患、2型糖尿病、脂質異常症などのリスクであり、よくないという観点に反することより肥満パラドックスと呼ばれています。このことを順次説明していきます。一般成人においては肥満、特に現在のBMIが高いこと、また経時的な体重の増加は、高血圧発症のリスクであることは証明されており、BMI<20を基準とした場合、BMI25〜29.9では高血圧発症のリスクは約1.5〜2.5倍になると報告されています。脂質異常症では、BMI<18.5を基準とした場合、BMI27〜30でその発症リスクは約2.7倍〜4倍になると報告されており、中性脂肪高値やHDL-コレステロールの低下と関連が強いとの報告があります。糖尿病においてもBMIが高いことはその発症リスクであり、特に若年時からの体重のコントロールが重要とされています。肥満と心血管疾患の発症についてはBMIがその独立したリスクであるかははっきりとしていません。肥満者・非肥満者にかかわらず心血管危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙)を持つ人は心血管疾患発症のリスクの上昇が認められ、心血管危険因子を持たない人ではその発症リスクの上昇は認められないことが示されているからです。つまり心血管危険因子の管理が重要なのです。一方、低体重も心血管死のリスクであることは色々な報告で示されており、注意が必要です。
次に高齢の肥満者でみてみると、BMIと高血圧の発症リスクは大きく変わらないと報告されています。糖尿病ではBMIが高くなるなど糖尿病発症のリスクは強くはなるが、高齢者においてはBMIと糖尿病発症の関連は弱くなることが複数の報告で示されています。心血管疾患については肥満関連指標としてBMIでなく腹囲で検討した日本からの報告では、男性では腹囲と心血管死の関連は65歳以上では腹囲が高いレベルで心血管死は低下傾向が見られ、女性では同年齢では腹囲が低いレベルで心血管死のリスクが上昇する傾向がみられています。このことは65歳以上では腹囲が高くてもリスクは上昇しないことを示唆しているかもしれませんが、複数の研究結果の検討が必要とされます。上記などより、高齢者においては肥満パラドックスがみられます。肥満パラドックスは高齢者では体重減少をきたす、依存疾患(癌、COPD、感染症など)の存在やリスクの高い肥満患者さんは早期に死亡し、高齢期まで生存した人は肥満の健康障害に対して抵抗性を有しているのではないか(生存効果という)との考察があります。
しかしながら肥満パラドックスなど高齢者におけるBMI・腹囲の上昇と心血管疾患・死亡のリスクとの関連についての研究報告はいまだ確立されてはいなく、今後の研究の蓄積が必要とされています。以上、肥満と心血管疾患、肥満パラドックスについて概説しました。

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