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心房細動と認知症

高齢化、生活状況の変化などにより、現在日本においては約600万人(2020年厚労省)の認知症の人がいるとされ、2025年度には約700万人に増加すると推測されています。
認知症(軽度認知障害、軽症のアルツハイマー型認知症)に対する根本治療薬がアメリカにおいて承認されましたが、その効果はいまだ明らかではなく、日本においては同薬は認可されていません。
したがって認知症の人に対する治療は従来の抗認知症薬による対症療法及び危険因子の管理や治療が中心となります。認知症の危険因子(リスク)としては従来より中年期の高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、心房細動、心不全、動脈硬化、メタボ、喫煙、運動不足などがあげられています。一方今回記載する心房細動のリスクには高血圧、脂質異常症、糖尿病、心不全、冠動脈疾患、脳梗塞、高齢、教育歴が短い、運動不足などが知られており、このことより心房細動の人は認知症の強いリスクであることがわかります。海外の研究でも心房細動を有する人は70歳以降に認知症の発症率が急激に増加し、心房細動は認知症のリスクとされています。また心房細動の人は心臓の中に血栓ができやすく、その血栓は頭部の血管を狭窄・閉塞して生じる心原性脳塞栓の最多の原因となります。心原性脳塞栓は脳梗塞全体の約28%を占め、80歳以上の人では脳梗塞の最多の病型となります。心原性脳塞栓は脳の大梗塞を生じることが多く、脳梗塞後の認知症(血管性認知症)に移行する可能性は高いことがわかっています。事実、心房細動を有する人が脳卒中を生じた場合、脳卒中後の認知症のリスクは心房細動を有さない人が脳卒中を生じた場合の2.7倍になるとの研究報告があります。同報告では、脳卒中を生じなくとも心房細動は1.4倍の認知症のリスクになるとしています。さらに心房細動に心不全や低血圧、徐脈(心拍数が遅いこと)を伴うと、加齢や動脈硬化、脳循環の低下と相まって、血液の流量の少ない(低かん流という)ことに起因する低かん流性認知症となる可能性も指摘されています。
心房細動による心原性脳塞血の発症を防ぐために、約50年来のある種の薬物を心房細動の人に服用してもらってきましたし、現在も服用してもらっている人も数多くいます。この薬の服用により心原脳塞栓は約70%抑制できるとされています。しかしこの薬の治療精度を保つためには、きめこまかい薬の服用量の調節が必要となり、認知機能の低下された人は、その薬の用量調節は困難なことが多く見受けられます。またこの薬の効果を維持するためにはビタミンKを多く含む緑黄色野菜や発酵食品の摂取の制限が必要となります。しかしビタミンKは骨代謝、動脈硬化などにも影響を及ぼし、その欠乏状態は骨粗しょう症や動脈硬化を悪化させ、さらに認知機能の低下につながる可能性が注目されています。ビタミンKの摂取量の少ない人は、多い人とくらべ一般的認知機能の指標であるミニメンタルステート検査(MMSE)の平均点が少なく、したがって高齢者の認知機能を維持する観点からはビタミンKの摂取を制限するべきではないと指摘されています。
最近ビタミンKの摂取を制限しなくてよい、心原性脳塞栓の発症を抑制する薬がいくつか認可されています。
これらの薬の効果は前述の薬とほぼ同等で、出血などの副反応の出現頻度は少ないことより、広く使用されてきています。さらにこれらの薬を服用されている人は前述の薬を服用されている人とくらべ認知症の発症のリスクが低いことが明らかにされています。以上説明してきたように心房細動そしてそれによる心原性脳塞栓の発症は認知症の高いリスクとなります。今、ご自分が罹患されている病気としっかりむきあい状態を適切に修正して下さい。当院でももちろん御手伝いします。

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