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肥大型心筋症

肥大型心筋症(HCM)は心臓の左心室ないしは右心室の心筋の肥大とその肥大に基づく左心室の拡張する機能の低下を特徴とする疾患群と定義されています。
臨床的にはHCMは心エコー検査あるいは心臓のMRI(CMR)で最大の左心室の壁厚が15mm以上(HCMの家族歴のある人は13mm以上)で定義されます。しかし診断の確定には基礎疾患ないし全身性の異常に続発し類似した病態を示す二次性心筋症が除外される必要があります。原因はHCMの人の約60%が常染色体顕性遺伝に伴う家族歴をもっておられ、そのうち約40%〜60%の人が心筋が収縮するためのサルコメアなどの遺伝子の変異によって発症します。HCMは心臓の形態(どこが強く肥大しているか)機能などにより5型に分類されます。
二次性心筋症は臨床的にHCMが疑われる人の約5〜10%の人に認められ、この場合は特異的な治療法の効果がある可能性があるため、HCMとの鑑別は重要です。(疾患名は略)HCMの有病者は世界的にこれまで報告された研究では約500人に1人の割合と推定され、人種の差は強くはないとされています。日本の1998年度におこなった疫学調査では有病者は人口10万人あたり17.3人で男女比は2.3:1と男性に多く、男女とも60〜69歳にHCMの分布のピークを認めています。HCMの人の予後は2002年におこなわれた日本の疫学調査では年間の死亡率は2.8%であり、死亡原因は不整脈が32%、心不全が21%であり女性が男性よりも生命予後は悪いとされています。HCMの人の自覚症状は無症候であることも多く、特徴的な症状はないことが多く認められます。ただしHCMの型によっては症状がある場合が多く、その場合大きく胸部の症状と脳症状に2分できます。胸部症状としては労作時の息切れや呼吸困難が多くみられます。その他胸痛や動悸もみられ、動悸は心房細動を合併したために出現した場合、高い頻度で血栓や塞栓を合併することが知られています。脳症状としての立ちくらみ、眼前暗黒感、失神などの脳の虚血を思わせる症状はHCMの重要な症状であり、突然死に至る前駆症状としても重要です。これらの症状は不整脈や薬剤(使用してはならない)の使用時、起立動作時、飲酒時などに好発します。HCMの診断は身体所見、心電図などより推測され、心エコー検査、CMR、核医学検査、心臓CT(心臓カテーテル検査)などでHCMの形態の評価、心臓の機能(および重症度)血流の動態および合併症などと合わせておこなわれます。
最近ではHCMが顕性の遺伝性疾患であることもあり、家族生血縁者の診断やフォローアップの必要性を決定するなどのために、HCMの人、その家族の同意のもとで遺伝子診断がおこなわれることもまれではありません。HCMの治療は突然死の予防、心不全、不整脈の治療が基本となり薬物療法と非薬物療法(外科的治療など)があります。突然死の予防は特に重要でそのリスクのある人(詳細は略)には心臓内にペースメーカーの植込みをおこなうことが推奨されています。またこれらの人は競技スポーツを避けることも必要です。薬物療法をおこなっても心不全をはじめとした症状の軽減が困難な場合は肥大した心臓の筋肉の切除やその筋肉を栄養している血管に薬液を流し筋肉を非薄化させること(PTSMAという)などがおこなわれます。
以上 HCMに関して概説しましたが、HCMは生涯にわたり左心室の病型や病態が変化し、病態に応じて心臓血管障害を認めます。したがってHCMと診断された人は長期にわたりフォローアップされることが重要です。ご承知おき下さい。

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