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血内の日内変動とは そのリスクは?(患者さんに知ってもらいたいこと)

一般の成人においては、1日に10万回程度の心拍数があるとされており、その心拍数に対して異なる血圧値が存在します。この血圧の変動は、体位や精神・身体活動などの刺激に対する生理的反応であり、血圧の変動はこれらに同調します。しかし一心拍ごとの血圧変動を「血圧の短期拍動」としてとらえることは現実的ではなく、通常は15〜30分ごとに一回測定されるABPM(自由行動下血圧)で24時間に得られる血圧値の変動をそれとしてとらえます。この24時間の血圧の変動は夜間血圧の降下の度合いと強く相関します。したがって血圧の日内変動は、覚醒して日常生活を営んでいる時間帯における昼間血圧と睡眠し、安静臥床状態にある夜間血圧との関係を比較したものとされることが多く、具体的には昼間血圧の平均値に対する夜間血圧の平均値の変化度で定義されます。日内変動は正常な人や多くの本態性高血圧の人に認められますが、ある種の病態でこの日内変動が障害されます。たとえば1.脳血管障害 2.心筋梗塞、心不全 3.慢性腎臓病(CKD) 4.糖尿病 5.閉塞性動脈硬化症 6.睡眠時無呼吸症候群 7.高齢男性 8.長期臥症 9.二次性高血圧 などです。日内変動の障害あるいは異常と臓器障害や心血管障害のリスクはどちらが原因で結果であるかは明確にはされていません。夜間の血圧が低下しないため、その血圧の持続する負荷により臓器障害や心血管障害のリスクは増悪します。一方臓器障害の結果重要な臓器の血流の自動調節機能が低下し、血流を維持するために二次的に夜間血圧が高く維持される可能性もあります。この二つの機序は現在どちらも存在し、血圧の日内変動の異常に対して悪循環を形成していると考えられています。
血圧の日内変動は上記であるため、現在昼間覚醒時血圧の平均の10〜20%以上、夜間血圧の平均が降下するものをディッパー、10%未満の下降を認めるものをノンディッパーと定義します。また20%以上下降するものをエクストリームディッパーとし、ノンディッパーの中でも昼間血圧の平均より夜間血圧の平均が上昇しているものをライザーと定義します。ディッパー、ノンディッパー、エクストリームディッパー、ライザーの人の我が国における頻度はそれぞれ40〜50%、10〜30%、15〜18%、7〜10%とされています。そしてこれらの指標をもちいて血圧の日内変動及びそれによる臓器障害のリスクを評価します。一般的にノンディッパーの人はディッパーの人と比較して高血圧性臓器障害は進行しており、脳血管性認知症や脳梗塞のリスクと考えられるMRI上での所見を高率に有しています。同様に心血管障害のリスクと考えられる心臓の肥大や頸動膜プラークの増大を有していることも多いとされています。またノンディッパーやライザーの人ではディッパーの人とくらべ軽度認知機能障害が高頻度で認められると報告されています。つまりライザー、ノンディッパーの人は突然死を含む心臓・脳血管障害のリスクは高くなるとされているのです。エクストリームディッパーの人は夜間における重要臓器への血流の低下が予測され、虚血性臓器障害の進行の可能性が指摘されています。つまりディッパーの人とくらべ無症候性脳梗塞の頻度が高く、それからの脳卒中発症率が高い。また脳出血の頻度が高いなどが報告されているのです。
また軽度認知機能障害も高頻度に認められると報告されています。さらに虚血性心疾患を合併した高血圧の人に降圧薬による治療をおこなうと夜間の虚血発作が増加したとの報告もあります。これらのことより臓器障害や心血管リスクの報告が少ないディッパーを呈する人が正常型であり予後がよいことがわかります。
それでは血圧の変動をディッパーにする方法はあるのでしょうか?塩分摂取により血圧が上昇しやすい高血圧の人に食塩制限、カリウムの投与をおこなうことによりノンディッパーがディッパーに変化する、あるいはある種の降圧薬の服用により夜間血圧が正常になる、また夜間の頻尿に伴う飲水行動をひかえる、良眠になるように工夫するなどはディッパーへの変化が考えられる要因です。しかし前述のように様々な疾患、病態により日内変動をきたしていることが多く、その場合それぞれの疾患、病態に対する治療、生活習慣の修正が必要です。それにより少しでも正常な日内変動に近づけることが重要と考えられます。すべての血圧の日内変動を正常にすることは困難であり確かな方法はありません。高血圧を含め生活習慣病にならないよう留意されることが肝要かと考えられます。

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