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胸部大動脈瘤を指摘された。治療方針は?(質問)

大動脈瘤は大動脈の壁の一部が全周性または局所性に拡大または突出した状態です。成人の大動脈の正常径は一般に胸部で30mm、腹部で20mmとされており、壁の一部が局所的に拡張(こぶ状に突出、のう常に拡大)した場合、または径が正常径の1.5倍(胸部で45mm、腹部で30mm)を超えて拡大(この場合は紡錘状の拡大が多い)した場合に大動脈瘤と称します。それには満たない拡大は瘤状拡張と称することがあります。瘤の発生部位により、胸部大動脈では胸部大動脈瘤(TAA)、胸部と腹部に連続する場合は胸腹部大動脈瘤、腹部では腹部大動脈瘤(AAA)と称します。
TAA、AAAは大半は無症状であり、画像検査で偶発的に発見・診断されることを多く認めます。しかし大動脈瘤の部位や大きさ、また瘤の拡大速度によっては併発症状は呈します。たとえばTAAでは咳や息切れ、嚥下痛、嚥下困難、嗄声を、AAAでは持続的または間欠的な腹部拍動感や腹痛、腹部不快感を自覚することがあります。瘤の圧迫により食事摂取時の腹満感から食欲低下をきたすこともあります。一方で致死的な原因となる瘤の破裂または切迫破裂(血液は血管の外に漏出はしないが痛みの位置が瘤の存在部位と一致する場合)時には、胸部・腹部・背部・臀部などに急激な疼痛を呈することが多く、特に破裂時にはショック症状などのバイタルサインの崩れをきたし、また破裂した場合には8割以上の人は救命が不能となります。したがって無症状時に診断されることが非常に大切です。特に65歳以上の男性や65歳以上の喫煙女性、第一度近親者に瘤の家族歴を有する人は大動脈瘤の罹患の可能性が高くなるので、AAAでは腹部エコー検査によるスクリーニングを検診などでおこなうことは有用と考えられます。
TAAの診断はCT検査が有用です。診断された大動脈瘤は、瘤の大きさや瘤の形状、その拡大速度により破裂リスクが推測されるため治療は以下のようになります。AAAではCT検査で最大短径が30mm以上の動脈瘤がある場合、@最大短径が男性で55mm以上、女性で50mm以上 Aのう状の動脈瘤 B半年で5mm以上の瘤径の拡大がある場合(一般的には瘤径の拡大速度は1.0〜4.2mm/年なので、半年で5mm以上拡大する場合は破裂リスクが高くなる)のいずれかでは破裂リスクが高いため、手術や血管内治療などの侵襲的治療を考慮することになります。@ABではない場合、瘤の拡大や破裂の最も重要な危険因子である喫煙をしない、血圧を130/80mmHg未満に保つなどの血圧管理、脂質(LDLコレステロールを120mg/dl以下に低下)の管理、冠動脈疾患、心不全などがある場合はその適切な管理などをおこない、そして動脈瘤の定期的な検査(CTでの)が必要となります。おおむね瘤の大きさにより3ヶ月〜2年間隔(瘤径が30mm〜55mm未満で瘤径により検査間隔を決める)となります。TAAの治療概要はAAAとほぼ同じですが、@は男女とも最大短径が55mm以上が侵襲的治療対象の考慮となります。ここで@ABでない場合の経過観察中の内科的治療に心血管疾患瘤の予後に重要な糖尿病に関して記載しなかったことに疑問をもたれるかと思います。糖尿病はAAA、TAAともに瘤の拡大、破裂および生命予後に対して保護的に働くのです。また瘤の発生率に関しても、負の相関がみられるのです。しかし一方で瘤に対する侵襲的治療をおこなった場合、治療後の合併病の発生率は高くなると報告されており、個々患者さんの状態に応じた血糖のコントロールは必要です。
以上、大動脈瘤の治療・管理を記しました。
質問の患者さんは70代前半の男性で胸部CTで47mmの紡錘状の動脈瘤があり、喫煙はされていないとのことでした。したがって並存疾患の加療と伴に1年ごとの胸部CTでの経過観察が有用と思われます。

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