お知らせ
高血圧の治療中。服用に気をつける薬があると聞いた。どんな薬か?(質問)
高血圧の治療中に服用に気をつけるようにと医師から言われたとのことですが、おそらくその薬により血圧が上昇する可能性があるから服用は推奨はできない、あるいは注意して服用と医師が指摘したと推察できます。医療用の薬の中には血圧の上昇作用を有し、高血圧を誘発するとともに、降圧薬と併用することにより降圧効果を減弱させる可能性のある薬が存在します。高血圧の人は他の疾患を合併し複数の医療機関を受診されている場合があり、それまで血圧のコントロールが良好であったのに血圧の管理が困難になったり、コントロール不良の高血圧になったりする場合があります。その場合我々は、薬による作用すなわち薬剤誘発性高血圧の可能性を考慮します。
薬剤誘発性高血圧は、二次性高血圧とされ、その原因となる主な薬物を説明します。
○非ステロイド性抗炎症薬:主に体の痛みや発熱などのときに服用する薬です。この種の薬は血管内の水・ナトリウムの貯留と血管の拡張の抑制をきたす作用があります。(詳細な作用機序は略) 高齢な人や特に腎機能の低下している人では、薬の服用により腎機能の低下を介して血圧が上昇します。また、高齢な人ではこの種の薬の服用により、急性の腎機能障害をきたしやすく、腎機能障害は上述の記載のごとく血圧の上昇をさらに促進します。したがって、この種の薬を服用する場合は、漫然でなく、一定期間できれば少量とすることが推奨されます。(できれば服用中に腎機能のチェックが必要)
○カンゾウ(甘草)、グリチルリチン:肝疾患治療薬、消化器疾患治療薬、その他の多くの漢方薬、健康補助食品、化粧品などに含まれています。血管内のナトリウムや水の貯留、カリウムの低下をきたします。甘草の投与量、投与期間、60歳以上などが危険因子となって血圧を上昇させます。ゆえに高血圧と同時に低カリウム血症などがあれば、甘草による血圧上昇を疑うことになります。血圧上昇はおおむね数週間(最大4か月)の甘草摂取の中断により改善するとされています。
○グルココルチコイド(ステロイド):多くの疾患で使用されており、喘息などの低用量の吸入では高血圧をきたすことはほぼありません。しかし中等量かつ長期の服用は高率に高血圧をきたします。高血圧の家族歴のある人は、ない人とくらべ上昇の頻度を多く認めます。血圧の上昇に関してグルココルチコイドの減量あるいは中止が第一ですが、困難な場合も多く、その場合は適切な降圧薬の増量服用が必要となります。
○エリスロポエチン:腎機能低下が原因となる貧血(腎性貧血)を改善させるために使われることが多いのですが、血圧の上昇を引き起こします。エリスロポエチンの市販後調査では29%で血圧上昇が報告されています。高血圧を発症するか、血圧が上昇した場合には、エリスロポエチンの減量、中止をすることが多いですが、軽度の上昇であれば、降圧薬の服用も有用と報告されています。(慢性透析患者さんにおける降圧薬の服用による血圧のコントロールは十分でないとの報告はある)
○エストロゲン:経口避妊薬や更年期障害の治療薬として用いられていますが、大量の使用で血圧上昇や血栓や塞栓をきたすとされています。すなわち血圧上昇の程度は用量依存性ですが、経口避妊薬は使用時から家庭血圧などでの定期的な血圧測定は必要で、血圧上昇が認められる場合は中止し、他の経口避妊薬を選択されるべきです。
その他、ある種の抗うつ薬やパーキンソン病治療薬、悪性腫瘍治療薬、消化器疾患治療薬、さらには総合感冒薬に含まれる成分などで血圧の上昇をきたすことはあります。これらの場合、今回記載した薬(医療用)と同様に投与する医師が細心の注意を払う必要があります。
血圧を上昇させる可能性の強い薬について概説しました。高血圧の人は参考にしていただけたらと思います。