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現在の脂質管理の目標値は?(2022年度改定)

脂質すなわちLDLコレステロール、総コレステロール、Non-HDLコレステロール(総コレステロールよりHDLコレステロールを引いたもの)、TG(中性脂肪)の上昇、HDLコレステロールの低値は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測します。したがって上記を適正な値で管理することは非常に重要です。今回は上記の2022年度現時点での適正な管理目標値について説明します。
脂質の管理においては、その高低による冠動脈疾患発症の絶対リスクが算定されているLDLコレステロールの管理目標値が多く用いられています。LDLコレステロールの管理目標値は、管理目標を設定する人の併存疾患の有無で異なります。すでに冠動脈疾患あるいはアテローム血栓性脳梗塞(大動脈の粥状軟化による梗塞)の併存あるいは既往のある人の再発予防(二次予防)のためには、LDLコレステロールを100mg/dL未満(Non-HDLコレステロール<130、TG<150、HDLコレステロール≧40)に管理目標値を設定します。この場合、急性冠症候群(以前のWebで説明した)を発症した人、家族性高コレステロール血症、糖尿病、アテローム血栓性脳梗塞を発症した人の4つの病態を合併している人の場合は特に動脈硬化性心疾患の発症リスクが高いため、LDLコレステロールの管理目標値は70mg/dLとし、厳格な管理をされる必要があるとされています。二次予防ではないが、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)の併存がある人は冠動脈疾患発症の高リスク群であり、LDLコレステロールの管理目標値は120mg/dL未満(Non-HDLコレステロール<150、TG<150、HDLコレステロール≧40)となります。そしてこの場合においてもPAD、糖尿病による細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)を合併されている場合、または喫煙されている場合は、冠動脈疾患発症のリスクは特に高くなるため、LDLコレステロールを100mg/dL未満に管理されることを目標とします。
上記の二群のいづれでもない場合、性別、収縮期血圧、糖尿病ではないが糖代謝異常の有無、血清LDLコレステロール値、血清HDLコレステロール値、喫煙の有無をポイント設定し、そのポイントの合計により今後10年間の動脈硬化性疾患の発症リスクを予測し、それにより冠動脈疾患発症を低リスク、中リスク、高リスクに層別化します(この分別は来院時にいたします)。そして低リスクの場合、LDLコレステロールを160mg/dL未満(Non-HDLコレステロール<190、TG<150、HDLコレステロール≧40)、中リスクの場合、LDLコレステロールを140mg/dL未満(Non-HDLコレステロール<170、TG<150、HDLコレステロール≧40)、高リスクの場合、LDLコレステロールを120mg/dL未満(Non-HDLコレステロール<150、TG<150、HDLコレステロール≧40)を脂質の管理目標値とします。
この冠動脈疾患発症一次予防(二次予防ではない)の場合、原則として3〜6ヶ月間は生活習慣の改善をおこない、その効果を評価したあとに薬物の服用をしていただくかを検討します。生活習慣の改善とは@禁煙、受動喫煙も防止 A適正な体重の管理。BMI(肥満指数)25未満を目標とする B食事管理:適切なエネルギー量と三大栄養素およびビタミン、ミネラルをバランスよく摂取する。飽和脂肪酸やコレステロールを過剰に摂取しなく、食物繊維や不飽和脂肪酸の摂取を増やす。減塩6g/日未満を目指す C身体活動・運動:中等度以上の有酸素運動を中心に、習慣的におこなう(毎日合計30分以上が目標)、レジスタンス運動を実施することも望まれる、座位行動時間を減らす D飲酒:アルコールはエタノール換算で1日25g以下にとどめ、休肝日を設ける などです。
しかし、LDLコレステロールが180mg/dL以上が持続する場合は、リスク(低・中・高)にかかわらず、生活習慣の改善とともに薬物の服用も考慮していただきます。なお、LDLコレステロールが管理目標に達成されていても、Non-HDLコレステロールが高い場合はTGが高い場合が多く、その管理が重要となることがあります。
以上の脂質管理目標値は基本的には80歳未満の人に適用されることを前提としています。したがって80歳以上(85歳くらいまで)の人の脂質の是正は、40歳未満の人(冠動脈疾患発症の絶対リスクが算定できない)同様に我々医師の判断と患者さん同意のもとにおこなわれます。
以上、現時点での動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、アテローム血栓性脳梗塞)発症予防のための脂質の管理目標値について概説しました。来院時には上記でわかりにくいところがあればもっと幅広く説明して患者さんのため服薬を検討します。

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