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安定冠動脈疾患の至適内科治療

冠動脈疾患の症状の緩和と二次予防のために、目標を設定し薬物による治療を強化し、生活習慣を改善することは、冠動脈疾患の至適内科治療(OMT)と称されます。すなわち、@症状の緩和のために必要な薬(抗狭心症薬)を服用し、高リスクな特徴(高齢、家族性高コレステロール血症、糖尿病など)が存在しなければ服薬による保存的治療を続ける、A心血管疾患の発症を回避するため、症状の如何などにかかわらず抗血栓療法(血小板の活性化、凝固による血栓形成を防ぐ)と目標値を目指した脂質の低下療法を行うことになります。
以下にこれらを説明します。
@の症状の緩和とは抗狭心症薬の服用を行うことで、これにより安定冠動脈疾患の人のQOL(生活の質)の改善が可能です。抗狭心症薬はβ遮断薬またはカルシウム拮抗薬という種類の薬を第一選択として狭心症の人に服用していただきます。これらの薬の併用も狭心症の症状が十分にコントロールできない場合にはしていただきます。我が国の安定狭心症の人の約40%に冠れん縮性狭心症(以前のWebで記している)が関連しており、そのことや心筋梗塞の既往や心臓の収縮機能の低下の有無などを考慮したうえで、どの抗狭心症薬を服用していただくかを決めることになります。
Aの発症を回避(予防)するためには、抗血栓薬、脂質低下薬、降圧薬および血糖の降下薬を服用していただくことが重要です。抗血栓薬は上述の如く血小板の活性・凝集および凝固を阻害し、その服用により血栓の形成を防ぎ、安定冠動脈疾患の人の生命予後を改善します。脂質低下薬の服用は安定冠動脈疾患の人のOMTの根幹となります。俗称スタチンという種類の薬を服用していただきます。服薬効果の高いスタチンの服用により、LDLコレステロール値が70mg/dL未満に低下したり、LDLコレステロール値が服薬前の50%以上低下することにより安定冠動脈疾患の人の生命予後が改善することが報告されています。LDLコレステロール値が70mg/dL以上の人で安定冠動脈疾患ではあるが再発のリスクの高い人にはスタチンに加え、他の脂質低下薬の服用・注射などが推奨されています(米国では)。我が国においてもこのような流れからLDLコレステロール値の50%以上の低下かつ目標とするLDLコレステロール値が70mg/dL未満の両者を満たすためにスタチン、スタチンに加え補完的に他の脂質低下薬の服用・注射が推奨されています。
血圧は大規模な研究で目標とする収縮期血圧が120mmHg未満の人が140mmHg未満を目標とする人とくらべ心血管疾患や全死亡率が減少することが示されており、厳格な血圧のコントロールが安定冠動脈疾患の人に対して有用である可能性があります。したがって我が国では若年の人では130/80mmHg未満、高齢の人では140/90mmHg未満を目標にすることが推奨されています。血糖にいおいては新規の血糖降下薬の服用により、主要な心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞、心血管死亡など)の発症を約15%、全死亡率を10〜20%減少させることが示されており、我が国においても、これらの薬の服用を推奨ないし考慮するとされています。高トリグリセライド血症(中性脂肪が高値)の改善は安定冠動脈疾患の人の再発などを減少させることが示されており、これに対して多価不飽和脂肪酸(EPA)の服用が考慮されます。また、安定冠動脈疾患の人が高齢であったり、フレイルや進行した慢性腎臓病(CKD)や心不全を併発しておられる場合、冠動脈疾患の有病率や心血管疾患の発症を上昇させる要因となります。しかしこれらの人に対してはOMTでよいのか侵襲的治療(血管内治療、外科的手術など)が必要なのかは、個々の人の病態を勘案しながら検討することになります。
今回記した安定冠動脈疾患の人がOMTを行うにあたり、禁煙、食生活の健全化、そして運動などを含む生活習慣の改善を行うことが心血管疾患発症予防に重要であることは当然おわかりだと思います。
以上、安定冠動脈疾患の人のOMTについて説明しました。

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