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高齢の高血圧者(80歳を過ぎた)、降圧薬の服用は必要か?(質問)

日本の国民健康・栄養調査(2015年)によると、65〜74歳の人の63%、75歳以上の人の74%が高血圧に罹患しているとされており、高齢な人の血圧の管理は重要な問題です。海外の80歳以上の高齢高血圧の人を対象とした研究では、降圧薬の服用により、脳卒中、全死亡、心不全、脳心管疾患の発症が有意に減少したと報告されています。日本における研究でも、血圧上昇に伴い、75歳以上の高齢者において脳心管血管疾患による死亡のリスクは上昇しています。したがって、これらの発症を抑制するためには高齢な人でも血圧は低いほどよいことになります。
ただし高齢の高血圧の人の血圧は動揺性が大きく、測定条件によって変動しやすいため、診察室の血圧のほかに家庭血圧、デイサービスなどで測定された血圧などを参考にする必要があります。また動脈硬化が腎臓に進行した場合に生ずる腎血管性高血圧、健康食品やサプリメントを含む薬剤誘発性高血圧、などの二次性高血圧に罹患されている場合があることも考慮しなければなりません。
高齢の高血圧の人の降圧は、非高齢な人と同様、生活習慣の修正は有用であり、積極的におこなう必要があります。減塩、運動、減量、禁煙などです。高齢な人は、一般に食塩に対する感受性が高いため、減塩は有効です。しかし過度の減塩は、味付けの極端な変化により、食事摂取量の低下から低栄養となる場合があり、また大量の発汗時などに脱水の誘因となるため、注意が必要です。運動は降圧に有用であり、有酸素運動が推奨されます。しかし高齢な人は転倒リスクが高く、関節の障害リスクもあるため、歩行は速歩ではなく、通常の速さでよいとされています。
レジスタンス運動も血圧低下の有用性は示されていますが、併存する疾患をお持ちの場合、事前のメディカルチェックが必要です。減量は降圧に有用ですが、急激な減量は有害となる可能性があり、個々の人の体重から勘案される適切な体重を目指した無理のない減量をおこなうことです。禁煙は当然されるべきです。アルコール量の多い人は節酒は必要です。
このような生活習慣の修正を考慮に入れた高齢な人の降圧薬の服薬開始基準は、原則として140/90mmHg以上となります。この場合、服薬開始にあたり、高齢な人は転倒、骨折のリスクが増加するため、降圧薬は少量から開始し、また、めまい、立ちくらみなどの症状の有無に注意していただく必要があります。また、高齢な人では起立性低血圧、起立性高血圧、食後低血圧を生じることがしばしばあることを知っておくことは必要です。動脈硬化、自律神経(交感神経)の活動亢進などが関与しているとされています。起立性低血圧は、降圧薬の服用により、起立時の血圧の低下度は改善する場合も多いとされています。起立性高血圧は高血圧による臓器障害と関連しているため、降圧は必要ですが、生命予後の降圧による影響を観察した研究はほとんどなく、有用な降圧薬や降圧の目標は具体的に明示できません。
降圧薬の選択に関しては、高齢の人に特徴的に生じる病態に有用とされている薬があります。特徴的に生じる病態とは、誤嚥性肺炎、高い骨折リスク、頻尿や夜間頻尿の合併などです。これらは生命予後や生活の質(QOL)に影響を与えるため、症状やそれらの既往を医師に伝え、降圧薬の選択をしてもらうことです。上記などの特定の降圧薬の適応がない人では、将来の脳心血管イベントの発症抑制があり、その人にとって有害作用のない薬の服用が有用です。
今回記したことは、ほぼ自立された高齢の人に対するものであり、フレイルや要介護状態にある人、人生の終末期にある人では個別の判断が必要あるいは投薬の有用性はないことを申し添えます。80歳を過ぎても適切な降圧は生命予後のため必要です。

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