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心不全発症予防に有効なこと

心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。日本における死因別死亡総数の順位では、心疾患による死亡は悪性新生物(癌)に次いで2番目に多く、心疾患の内訳のなかでも心不全は最も死亡数が多い疾患です。したがって、心不全の発症を個々の人のできる範囲で予防する知識を身につける、あるいはそれを実施することは重要です。心不全の病期の進行については、心不全ステージ分類(ACCF/AHAの分類)が用いられることが多いです。それは以下の分類となります。
・ステージA:高血圧、糖尿病、動脈硬化性疾患などの心不全となりうるリスク因子をもつが、器質的心疾患がなく、心不全症候のない人(器質的心疾患のないリスクステージ)
・ステージB:虚血性心疾患、左室肥大・左室の血液の拍出力の低下、無症候性弁膜症などの器質的心疾患を有するが、心不全症候のない人(器質的心疾患のあるリスクステージ)
・ステージC:器質的心疾患を有し、心不全症候を有する人、およびその既往のある人(心不全ステージ)
・ステージD:おおむね年2回以上の心不全入院を繰り返し、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないし治療が考慮されたにもかかわらず、心機能の改善が不良な人(治療抵抗性心不全ステージ)
心不全A、Bの人は、心不全の発症予防に重点がおかれ、ステージC、Dの人では心不全症状の改善に加えて、心不全の進行・再発予防そして生命予後の改善をはかることに重点がおかれます。つまり前者が狭義の心不全予防となり、後者を含めたものは広義の心不全予防となります。
心不全は食事、運動などの生活習慣の管理に加えて、その危険因子に対する服薬など適切な治療などにより発症・進行・再発を予防できます。
次に、その危険因子に対する管理を説明します。
1.高血圧:高血圧の治療は心不全の発症を抑制し、生命予後の延長につながります。減塩や減量などの生活習慣の修正に加えて、降圧薬の内服をおこなうことになります。
2.冠動脈疾患の人は心血管傷害の発症抑制と生命予後改善のため、そして心筋梗塞後の人はその再発予防および心不全発症予防のために、その効果が有意で明らかになっている薬の服用をおこなうことになります。
3.肥満・糖尿病:肥満や糖尿病の人は、心不全の発症に関連し、特にインスリン抵抗性を基盤とした糖尿病やメタボリックシンドロームはいずれも心血管疾患の重要な危険因子であることから、減量や運動療法などの一般的な生活習慣の改善に加えて、薬物の服用による包括的なリスク管理が必要です。心不全の発症リスクは、身体活動度と負の相関、BMI(肥満指数)と正の相関を示すとされているのです。
4.喫煙:喫煙は心血管疾患のリスクであり、心不全の人においては禁煙は死亡率や心不全を含む心血管疾患の再入院率を軽減します。そのため、禁煙は強く推奨されます。
5.アルコール:アルコール摂取量と心不全の発症率はUカーブ(適量であれば発症は少ないが、逆に摂取が多くなるとその発症は増加すること)を示します。したがって飲酒する人は適量の飲酒習慣を維持することが大切です。また、多量飲酒はアルコール性心筋症の原因となります。その場合は断酒が必要です。
6.身体活動・運動:身体活動量と心不全の発症リスクは用量依存性に逆相関します。たとえば4MET(普通の歩行速度)の運動を週に約120分することで心不全の発症リスクは10%低下し、約240分すると19%低下するとされています。
その他、安定したステージCの心不全の人は、心不全増悪による再入院の予防をおこなうことは重要です。心不全再入院の独立した予測因子は、通院不良、心不全の入院の既往、長期入院、高血圧、無職の人になります。つまり心不全再入院を予防するためには、心不全の冒頭に挙げた特徴や服薬の意義を理解していただき、それを我々医師などと包括的に管理し実施していただくことが必要です。特に服薬に関しては、ステージCで左心室の収縮する機能の低下した人に対して、ここ数年新しく創作された薬の効果が以前の薬より心血管死の発症、心不全入院および予防に有意に良好なことが明らかになっており、それらの数種類の薬(ファンタスティックフォー(4)と俗にいわれている)の服用が推奨されています。左心室収縮能の維持された人にも有効との研究報告がいくつか出てきていますが。
また、心不全の人は感染症を契機に症状の増悪をきたすことが多いため、その予防(手洗い、マスク着用など)に加えて、インフルエンザ、肺炎球菌、COVID19に対するワクチン接種をすることも大切です。
以上、心不全発症予防に関して説明しました。

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