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感染性心内膜炎(IE)<追補版>

感染性心内膜炎(IE)は、心臓の弁膜や心内膜、大血管の内膜に細菌の集蔟を含む疣腫(ベジテーション)を形成し、菌血症、血管の塞栓、心臓の障害など多彩な症状を呈する全身性の敗血症性疾患です。IEは発症率は高い疾患ではありませんが、いったん発症すると、的確な診断のもと奏功する治療がなされなければ、多くの合併症をおこし、ついには死に至るものです。
IEは、何らかの基礎疾患を有する人にみられることが多く、それらの人が尿路感染症や肺炎などの菌血症を誘発する感染症を合併したり、菌血症を生じうる小処置などの後に持続する発熱などを認めた場合には、IEの発症を疑う必要があります。しかし、誘因がはっきりすることなく、発症する人が多いことも事実です。IEは発症により急速に心不全を発症する人、特異的な症状が少なく心不全症状も軽く慢性的な経過をたどる人がいます。IEの人は約90%の割合で発熱を認め、寒気や震撼(約50%)、食欲不振や体重減少(約30%)、曷疲労感(約45%)などの症状も伴います。慢性的に経過した人では、脳梗塞、腎梗塞、脾臓の梗塞などの塞栓症に伴う症状で、IEの発症を発見されることも少なくありません。IEの人の身体所見としては、肝臓や脾臓の腫大(約20%)、手掌や足底の痛みを伴わない紅斑(5〜10%)、痛みを伴う皮フの湿疹(約3〜10%)、点状の出血斑(30%)、爪の下の出血斑(10%)などを認めることがあります。一方、医師の聴診による心臓の雑音は80%を超える人に認められます。血管の合併症としては、前記の脳梗塞や急性心筋梗塞、脾梗塞や腎梗塞などがあり、点状出血斑や爪下の出血斑と同様、塞栓が原因です。また、細菌が原因で生じる細菌性動脈瘤も血管合併症です。これは、脳の動脈や腸間膜の動脈に形成されることが多く、無症状に拡大して破裂するとクモ膜下出血や脳出血をおこし、致命的となりえます。
IEの診断は敗血症に伴う症状、血液中のIEの原因となる菌の確認、疣腫などの感染に伴う心内構造の破壊の確認に基づいてなされ、1994年に発表されたDukeの診断基準(詳細は略)が参考とされることが多いです。その中で、血液培養(採血して血液中の原因菌を検出する)や疣腫などの検出するための心エコー図検査は必須におこなわれます。(CTやMRIも実施されることはあります)
IEと診断された場合、その後に起こりうる死亡などのリスクを評価し、リスクが高い人の場合は早期に外科治療の適応となります。(死亡リスクの高い原因菌によるIE、脳梗塞のリスクの高くなっている人など) それ以外の人に対しては治療として内科的に原因菌に対して有効と推奨されている殺菌的な抗菌薬を高用量で長期間投与することになります(約2〜8週間)。しかし、内科的な適切な治療がおこなわれていても、合併症が発生することはあります。心不全は感染した組織の破壊による弁膜を通じた血液の逆流により発症し、緊急的な外科手術の適応を検討することになります。内科的治療で心内構造物の感染のコントロール困難な治療抵抗性感染といわれる病態においても、外科的な治療の考慮が必要です。塞栓症には抗菌薬投与前に発症することがもっとも多く、投与後数日間は発症の多さは続きますが、その後は急激に減少し、2週間を超えて発症することは少ないとされています。しかし塞栓症の原因となる疣腫の大きさや疣腫の可動性、付着部位などにより手術が必要となることはあります。腎障害はIEの3分の1に合併するとされており、その予後は不良とされています。(塞栓症による腎梗塞、抗菌薬による腎障害などが考えられる) IEにおける外科的治療は今まで記載したように多くの場合にその適応が生じ、わが国においてはIEの6割の人が外科的治療を受けておられます。IEでは弁膜の障害・菌血症の重症度・塞栓症の可能性が刻々と変化していくため、手術時期は機を逸することなく判断されます。IE治療後の人は、そうでない人とくらべ生命予後は不良であり、初回治療後数年の間に再発、心不全などの病態が生じることが多く、そのため定期的な受診などによるフォローアップは必要です。
最後に、IEの予防について少し記載します。心臓疾患の人のIEの生涯発症率は健常な人より高いことは示されています。したがって、IEの予防はこれらの人にとって重要です。IEの予防は抗菌薬の予防的投与によってなされます。抗菌薬の予防的投与が強く推奨されているものは以下となります。歯科口腔外科領域では出血を伴い菌血症を誘発するすべての侵襲的な歯科処置(抜歯・インプラント手術など)、耳鼻科領域での扁桃摘出術・アデノイド摘出術、心血管領域ではペースメーカー植え込み術など。ただし、上記は弁膜の置換術をされた人、IEの既往を有する人などのIEの高リスクの人の場合です。
以上、IEの概説を記載しました。IEは知っていただきたい疾患です(特に心臓病をお持ちの方は)、ご留意ください。

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