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潜在性甲状腺機能低下症は心臓に悪いといわれた。服薬は必要か?(70代、高血圧の女性)(質問)

甲状腺ホルモンはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)があり、甲状腺から分泌されています。甲状腺ホルモンは、脳の下垂体という臓器より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって、その分泌が調整されています。甲状腺ホルモンは、全身の代謝を調節します。すなわち、心拍数、体温、エネルギーの消費による体重の増減、記憶力などの精神状態などに関与しています。循環器に関しては、末梢組織での酸素の需要増加やホルモン(主としてT3)の作用による心臓の収縮力の増加、全身の血管抵抗の低下、造血作用の亢進による血流量の増加などを生理的におこないます。
甲状腺機能の診断は、血液中の遊離した甲状腺ホルモンすなわち遊離サイロキシン(FT4)、遊離トリヨードサイロニン(FT3)、TSHの測定によってなされます。甲状腺機能低下症の場合は、FT3、FT4は低下、TSHは上昇します。この場合、長期間、治療されないで重篤な状態になると、ホルモンには上記のような作用があるため、心不全を呈し得ます。徐脈(脈が遅いこと)、低血圧、脈圧低下、心のう液(心臓をおおっている心外膜と心臓の間にある液体)の異常な貯留や心臓の収縮力の低下、末梢の血管抵抗の上昇などにより、心不全を発症します。しかし、甲状腺ホルモンの低下による全身の組織の酸素需要量は低下しているため、心不全を発症する人は少ないです。ちなみに甲状腺機能低下症のよく認められるほかの全身的な症状は、無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作かんまん、記憶力低下、便秘、嗄声などです。
ご質問の潜在性甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンは正常範囲内にはあるが、TSHのみ高値を呈する病態です。多くの人は無症状ですが、脂質異常症や動脈硬化症、心臓血管障害などの高リスク状態と報告されています。血液検査でのTSHの正常上限値を4.5μU/mLとした場合、10μU/mL以上が長期に持続した場合、冠動脈疾患や心不全さらに冠動脈疾患による死亡が有意に上昇することが明らかとなっているため、潜在性甲状腺機能低下症であっても、この場合は甲状腺ホルモンの服用による治療が推奨されています。なお65歳以上(高齢者)の潜在性甲状腺機能低下症の人は、ホルモン服用による治療での心臓血管障害のリスク低下効果は認められなかったとの報告があり、高齢者へのホルモン服用は適応を慎重に評価するべきともされています。ちなみに、潜在性甲状腺機能亢進症(TSHは低値、FT4は正常範囲内)の人も、長期に経過すると心房細動、心不全、冠動脈疾患、それらによる死亡が増加するため、TSHが低値が続いた場合(TSH<0.1μU/mL)、甲状腺機能亢進症の人と同様の治療をされることが推奨されています。
したがって、ご質問の人、70歳とのことですが、主治医は服薬必要との判断かなと推察します。自身の健康のためですので、上記をふまえて主治医と話し合い、服薬の有無を決断されたらと考えます。

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