お知らせ

糖尿病になって期間は長い。インスリン治療を勧められた。どうすべきか?(男性・50代後半)(質問)

糖尿病には成因により(I)1型 (II)2型 (III)その他の特定の機序、疾患によるもの (IV)妊娠糖尿病、の4つに分類されます。(I)は膵臓のインスリン分泌をおこなうβ細胞の破壊によりインスリンの欠乏が生じ発症します。(II)は糖尿病の人の大多数を占める成因です。インスリン分泌低下やインスリン抵抗性(インスリン分泌はあるが効果を発揮できない状態)をきたす複数の遺伝子に、過食(特に高脂肪食)、運動不足などの生活習慣、その結果としての肥満などが環境因子として加わり、発症します。(III)は膵臓疾患、肝臓疾患、内分泌疾患、ウイルス感染などの病態として糖尿病状態になるものや、遺伝子異常からなるものなどがあります。(IV)は妊娠中にはじめて発見または発症し糖尿病に至っていない糖代謝異常です。
上記に分類された糖尿病の人に対してインスリン使用による治療は、絶対的に必要な場合と相対的に必要な場合があります。
インスリンによる治療が絶対的に必要な場合は次の病態です。@インスリン依存状態(インスリンを使用しないと急性期の糖尿病合併症が出現し、昏睡などのケトーシスと呼ばれる状態をおこし、生命に危険が及ぶこと) A高血糖による昏睡 B重度の肝臓の障害、腎臓の障害を合併し、食事療法で糖尿病のコントロールが不十分なとき C重症の感染症、外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行をする場合など)のとき D糖尿病を合併した妊婦の人 E静脈栄養をしている場合の血糖コントロール時。
インスリンによる治療が相対的に必要な場合は、次の病態があります。@インスリン非依存状態でも、著明な高血糖(空腹時血糖値250mg/dl以上、随時の血糖値が350mg/dl以上)を認める場合やケトーシス(尿中ケトン体陽性など)傾向を認める場合 Aインスリン以外の薬物療法では良好な血糖のコントロールが得られない場合 Bやせ型で栄養状態が低下している人 Cステロイドの治療により高血糖を認める場合 D糖毒性(高血糖によりインスリン分泌の障害やインスリンの働きが悪くなること)を解除する場合、です。
1型糖尿病の人は、ほぼインスリン治療が絶対的に必要であり、2型糖尿病の人は、多くの場合、インスリン治療は相対的に必要となります。すなわち上記に記載したインスリン以外の薬物療法に食事療法、運動療法をおこない、それでも糖尿病のコントロール目標が達成できない場合にインスリンによる治療をおこなうことを多く認めるということです。したがって2型糖尿病の人は、インスリン治療を導入する前にインスリン以外の血糖低下療法の効果を充分に検討することが必要です。
一方で、血糖のコントロールが不充分であるのにインスリンによる治療を希望されず無為に時間を過ごされると、このコントロールの不良期間の代謝状態の悪化は体内に記憶され(メタボリックメモリーという)、その後の併発症の進行に悪影響をおよぼします。したがってインスリン治療の適応がある場合には、時期を逸することなくその治療を導入されるべきとされています。ご質問の方は2型糖尿病で、上記に記載した血糖の低下療法をおこなっても糖尿病のコントロールが不良であり、それによる大・小の血管障害などの合併症を主治医が危惧してインスリン治療の導入を勧めたと推測されます。インスリン治療は導入しても、それから離脱できる場合は少なからずあります。前向きな検討をお勧めします。

お知らせの一覧を見る