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家系型的に脳梗塞が多い。注意すべきことは何か?(高血圧、高コレステロール血症の50代男性)(質問)

高血圧は疫学的に脳卒中および脳卒中を含めた心血管イベントの最大の危険因子です。つまり血圧が高いほど、脳卒中および脳卒中を含めた心血管イベントの発症率は高くなります。したがって、高血圧治療は脳卒中発症予防にはきわめて大切であり、有効です。事実、降圧による脳血管障害の発症率の低下は冠動脈疾患の低下よりも大きかったとする報告はあります。また年齢別では、60〜79歳の人の降圧による脳卒中抑制効果は80歳以上の人よりも高く、さらに18〜59歳の若年者ではより強く抑制されたとの報告があります。降圧目標値はその人の年齢、併存疾患、服薬されている薬などを考慮し定められます。2010年代なかばの多くの研究データの解析では、降圧薬服用前の血圧が収縮期血圧で130mmHgになるまでは降圧の程度と心血管疾患の発症抑制には比例的な関係を認め、脳卒中の発症についての解析でも降圧薬服用による収縮期血圧が130mmHg未満の群を除き、それ以外の血圧で有意な発症の抑制効果を認めています。一方で高齢な人では、血圧と心血管疾患発症率との関係はゆるやかになり、かつ無症候性の臓器障害を複数有する人が多いため、降圧薬服用後の血圧・症状などは注意される必要はあります。
脂質異常症の日本人を対象として脳梗塞を検討した研究では、動脈硬化との関連が強いアテローム血栓性脳梗塞においては、血清総コレステロール値、そしてLDL-コレステロール値の上昇はその発症を増加させることが示されています。脂質異常症の治療は俗称スタチンと呼称される系統の薬剤の服用が主流となります。スタチンを用いた脳卒中発症リスクに関する解析では、出血性脳卒中を増加させることなく、脳梗塞の抑制効果は示されています。またスタチン服用による脳卒中発症抑制効果は、75歳より高齢の人でもそれ以下の年齢の人と変わらず効果は見られると報告されています。(ただし心血管疾患の既往のない人ではその効果は減弱していた)なおスタチン以外の薬剤をスタチンと比較した解析では、LDL-コレステロール低下作用と脳卒中を含む心血管疾患抑制効果は直線的な相関を有し、すなわちLDL-コレステロール低下作用が同等ならば心血管疾患抑制効果はスタチンと同程度期待できる可能性が示されているのです。
トリグリセライド(中性脂肪)と心血管疾患リスクは相関することが疫学的に示されています。しかしトリグリセライドの低下作用のある薬による心血管疾患発症の一次予防効果を示す研究データは乏しいのが現状です。
高血圧に慢性腎臓病(CKD)を併存している人では、脳卒中の発症予防とCKDの進行予防には高血圧の管理が重要となります。特にCKDで蛋白尿を認める人では、130/80mmHg未満の降圧目標を達成することで脳卒中の発症率が抑制されることは示されています。またCKDの人のスタチン服用による脳卒中抑制効果を検証した日本における研究では、スタチン服用により有意な脳卒中発症抑制効果が示されています。
肥満は、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満があります。内臓脂肪型肥満は、高血圧、脂質異常症、糖尿病の原因となり、メタボリックシンドローム(Mets)を引きおこし、心血管疾患の発症リスクを高めますが、肥満そのものが脳卒中発症のリスクであるという報告も多く見受けます。たとえばMetsを合併しない肥満の人は正常体重の人と比べ、脳卒中を含む心血管疾患の発症が1.5倍高かったとの報告、またBMI(肥満指数)が30以上の人はそうでない人と比べ、脳卒中発症のリスクが1.14倍高くなることを示した報告などです。
睡眠時無呼吸症候群の人は脳梗塞の合併頻度は高くなります。複数の研究で睡眠時無呼吸症候群は脳卒中発症リスクを約2.3倍高め、特に男性で発症リスクを高めたと解析されています。上記の治療に用いられる持続的陽圧呼吸(CPAP)は、その使用の有無によらず脳卒中発症リスクと関連していたとの大規模研究での報告があり、CPAP治療による脳卒中発症予防効果は証明されていません。
末梢の動脈疾患は脳梗塞のリスクを高めます。脳血管障害を2.17倍、致死的な脳卒中を2.28倍高め、無症候の末梢動脈疾患でも同様に脳卒中発症リスクを高めたと多くの研究での解析を認めます。末梢動脈疾患は脳卒中と共通のリスク、すなわち高血圧、脂質異常症、糖尿病などがあり、これらを厳格にコントロールする必要があります。
飲酒はその量と出血性脳卒中(脳出血、くも膜下出血)の発症率との間には直線的な正の相関関係があります。一方、虚血性脳卒中(脳梗塞など)の発症率と飲酒量との間には、いわゆるJカーブ現象とよばれる関係があります。すなわち非飲酒者と比べ、少量から中等量の飲酒者では虚血性脳卒中の発症率は低く、大量の飲酒者では高くなるのです。したがって大量の飲酒(エタノール換算で48g/日)はすべての脳卒中の病型の発症リスク上昇と関連し、特に脳出血とくも膜下出血の発症により強く関連していることが示されており、飲酒の制限は必要です。
喫煙は脳卒中のリスクであることはこれまでに数多く報告されています。病型別解析では喫煙は脳梗塞とくも膜下出血の有意なリスクではあるが、脳出血の有意なリスクではなかったとされています。一方、日本の心房細動の人を対象とした研究報告、他では喫煙は脳出血の発症リスクを高めることが示されています。喫煙は高血圧の人ではさらに脳卒中(致死性脳卒中を含む)リスクが高くなります。脳卒中リスクは喫煙本数が多いほど大きくなります。1日1本の喫煙でも1日20本喫煙する場合の1/2程度の発症リスクがあることが示されています。しかし5〜10年の禁煙により、脳卒中の発症リスクは低下します。重要なことです。受動喫煙も脳卒中のリスクとなるいくつかの報告はあり、避けることにより心血管疾患を含む発症リスクは減少するとされており、このことも非常に大事です。電子タバコは脳卒中発症リスクを低下させる可能性はあるが、十分な研究はなく、勧められません。
以上、脳卒中発症予防に留意することを記載しました。糖尿病は脳卒中発症の主要なリスクですが、質問の方は、その併存はないとのことで省略しました。しかし、脳卒中発症の強いリスクであることは留意してください。
また、脳卒中発症予防について個々のことに記載しましたが、大切なのはそれらを包括的に良好にコントロールする、あるいは是正すべきことは是正するということです。承知ください。
なお、脳梗塞(脳塞栓)発症の重大なリスクである非弁膜症性心房細動は、質問者には見られないので、それによる脳卒中発症リスク・予防も省略しました。

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