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冠動脈疾患予防(一次予防)を目指す身体活動

冠動脈疾患の二次予防(冠動脈疾患に罹患している人の再発予防)に関しての運動などによる心臓リハビリテーションの効果は確立され、推奨されています。一方、冠動脈疾患の一次予防(冠動脈疾患のない人の発症予防)に関しては、二次予防と比べ、その研究状況は充分とは言えないものの、その効果は認められるとの報告は多くあります。運動のみならず仕事、移動、家事などを含む日常生活活動は身体活動とされています。身体活動の低下は肥満、メタボ、高血圧、糖尿病、脂質異常症など冠動脈疾患を含む動脈硬化性疾患のリスクとなります。また身体活動低下に加えて、その活動低下が顕著な身体的不活動は冠動脈疾患のリスクであることは知られています。つまり、身体的不活動は冠動脈疾患に対しての人口危険割合は10%とされており、不活動の人がいなくなると10%の冠動脈疾患の減少が見込めると報告されているのです。
したがって、冠動脈疾患の一次予防に関しても、定期的な運動と身体活動を増加させ、不活動を減少させることは重要です。実際、身体活動量の多い人は不活動の人と比べ、冠動脈疾患による死亡、心血管死亡などが有意に少ないことが示されています。さらにその効果は、家事や職場での歩行などの低強度の身体活動でも観察されています。つまり、冠動脈疾患を含む動脈硬化性疾患の発症および生命予後改善に有効なのです。
しかし日本における現状を見てみると、運動習慣のない人口の割合は東アジアの中では一番多く、また厚労省が身体活動基準として推奨している23メッツ・時/週(8,000〜10,000歩の一日歩数に相当)を満たしている人は、成人の半数未満というのが実情であり、身体活動量の増加は喫緊の課題です。
身体活動による冠動脈疾患のリスク改善効果を示しますと、降圧効果は有酸素運動により2〜5/1〜4mmHgの低下が期待されます。糖尿病に関しては8週間以上の運動療法でHbA1c(1〜2ヶ月の血糖のコントロール状況を表す指標)を0.66%減少させると報告されています。脂質異常症では、HDL-コレステロール上昇、総コレステロール・LDL-コレステロール・トリグリセライド(中性脂肪)低下が示されています。また運動を継続することで抗炎症などを介した冠動脈疾患の予防も期待できるとされています。(動脈硬化は血管の炎症が関与するため)
それでは、どのような運動およびその強度が冠動脈疾患、またその原因となる疾患に有効なのでしょうか。
運動には大きくわけて有酸素運動・レジスタンス運動があります。どちらも有効かつ推奨はされています。
有酸素運動は、リスクと効果の観点から、中等度の運動(自覚症状の指標でいえばボルグ指数11〜13(楽である〜ややきつい))が勧められています。具体的な運動としては、速足歩きやゆっくりとしたジョギング、サイクリング、ダンス、水中運動などです。この運動を1日30分以上、週3回以上(可能であれば毎日)、または週150分以上実施することが目標とされています。中等度の運動が不可能な人は、家事・職場での低強度の身体活動を行うことにより冠動脈疾患の発症を予防する効果は期待できるため、低強度の身体活動も推奨されます。
レジスタンス運動は、筋肉抵抗をかける動作を繰り返しておこなう運動です。筋力トレーニングであり、筋力や筋肉量の低下している高齢者の場合、レジスタンス運動により体力・筋力の向上や動脈硬化性疾患の危険因子改善に有用である可能性が高く、レジスタンス運動が禁忌の人でなければ、その運動は推奨されています。具体的には最大重量(1回は実施可能だが、2回は連続して実施できない重量)の50〜85%の重量で、平均的には12回程度の反復数の運動を1〜2分の休憩をはさみ、徐々に運動をおこなうセット数を増やして3〜5セット程度おこない、上・下半身の筋肉を含んだ6〜7種類の運動を週に2〜3回おこなうことを目標とします。
一方、運動とは逆の身体的不活動、いわゆる座位時間の増加は冠動脈疾患のリスクとなります。座位時間が長いと冠動脈疾患、心血管病、脳卒中の発症の増加、死亡数の増加につながることが報告されています。また、テレビを見る時間が長いと冠動脈疾患や心血管病による死亡率が高いことも示されています。したがって、運動時間の増加のみでなく、座位などの不活動時間を減少させることも重要なのです。
以上、冠動脈疾患の一次予防における身体活動に関して記載しました。要は今の生活に10分間運動時間を増加させることから始め、成人では60分/日、高齢者では40分/日以上の身体活動をおこなう生活を送ることを目標とされたらと考えます。

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