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糖尿病、その冠動脈疾患発症予防

糖尿病は冠動脈疾患の危険因子であることはよく知られています。たとえば2型糖尿病の人は、糖尿病でない人と比べ2〜3倍冠動脈疾患発症のリスクが高く、また血圧、コレステロール、喫煙などのよく知られた危険因子2個分に相当することが報告されています。欧米の研究では、糖尿病の人の心筋梗塞発症頻度(一次予防)は、糖尿病でない人の心筋梗塞再発頻度(二次予防)に相当することも明らかにされています。
2型糖尿病の人の急性心筋梗塞発症リスクの最も強力な予測因子はHbA1c値であり、HbA1c値と急性心筋梗塞発症リスクは直接的な関連が示されています。このことは血糖が高いほど冠動脈疾患のリスクが増加することを示しており、そして血糖を含め併存する危険因子の管理により急性心筋梗塞の強いリスクを軽減できる可能性があることも示唆されます。一方、糖尿病診断の前段階、すなわちHbA1c値がまだ上昇していない耐糖能異常の段階でも、すでに冠動脈疾患発症リスクが耐糖能正常な人と比較して高いことも明らかにされています。
1型糖尿病の人(膵β細胞の破壊によりインスリン分泌能が極度に低下している)は、2型糖尿病の人と異なり、肥満、高血圧、高コレステロール血症の合併は少ないものの、非糖尿病の人と比較して、冠動脈疾患を含む主要な心血管疾患(CVD)が男性では約4倍、女性では約7倍増加することが報告されています。1型糖尿病の人の冠動脈疾患のリスク因子解析では、糖尿病の罹病期間、アルブミン尿、HbA1c値、LDL-コレステロール値、収縮期血圧が報告されており、血糖以外の危険因子の関与が1型糖尿病の人でも示唆されます。また糖尿病の細小血管障害と冠動脈疾患発症リスクに関しての報告では、糖尿病性腎症の微量アルブミン尿期から顕性腎症に進展するほど冠動脈疾患発症リスクが上昇し、腎症の進展が冠動脈疾患リスクをさらに高めるとされています。糖尿病網膜症に関しても、その進行が冠動脈疾患の進展と密接に関連します。
上記により、糖尿病は冠動脈疾患の独立したリスクであり、冠動脈疾患の一次予防には、血糖に対する介入のタイミングや包括的治療が重要な点と考えられます。介入のタイミングは、糖尿病診断早期に良好血糖管理が維持できるような治療介入が重要であることは以下の報告などにより示唆されます。糖尿病性細小血管障害はHbA1c値8%以上で増加するのに対して、冠動脈疾患はHbA1c5〜7%と境界型を含むレベルからその発症率の増加を認め、糖尿病の初期から病変が進行していることが示唆されます。糖尿病診断後1年以内にHbA1cが5〜6%未満に達成できなかった場合、大血管障害の将来的なリスクが上昇し、糖尿病診断後1年以内にHbA1cが7%以上の場合は不可逆的な死亡率が増加するなどです。実際、2型糖尿病の人を対象とした研究では、診断早期より血糖に対して介入することにより、その後長期に渡り大血管障害の発症リスクは抑制されています。(遺産効果)
冠動脈疾患のリスク因子に対する包括的な治療介入も重要です。前述のように、その他のリスク因子が加わると冠動脈疾患の発症リスクは増加します。たとえば微量アルブミン尿を呈する2型糖尿病の人に対して、血糖、脂質、血圧に対する包括的かつ厳格な管理を約8年間おこなった研究では、冠動脈疾患発症リスクが約53%有意に減少したと報告されています。わが国でおこなわれた研究では、包括的な血糖の厳格な管理で、冠動脈疾患発症リスクの有意な減少は認められなかったが、脳卒中発症リスクは有意に減少しています。また欧州でおこなわれた研究では、同様な血糖の厳格な管理で心血管疾患の発症および死亡を有意ではないものの減少させています。しかしこの研究を後に解析すると、2型糖尿病の診断と包括的管理の開始が3年遅れた場合、CVD発症リスクは有意に上昇し、診断後の血糖値、脂質、血圧の治療強度よりも治療開始時期が重要であることが示されています。
以上より、2型糖尿病を診断した時には、心血管疾患の危険因子を同時にかつ早期に診断し、血糖を含めすみやかで包括的な介入が冠動脈疾患の一次予防に有効である可能性が示唆されています。つまり、血糖、血圧、コレステロールの治療強度よりも治療の開始時期が重要なのです。
以上、糖尿病と冠動脈疾患発症予防に関して概説しました。

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