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MINOCAとは

急性心筋梗塞の中には、梗塞部位に対する原因となる血管に閉塞・狭窄を認めないことがあることは、以前より報告されていました。この現象に関して、2012年に冠動脈造影上、心外膜の冠動脈に50%以上の有意狭窄病変を有さない急性心筋梗塞を表す用語として、冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(MINOCA)が提唱されています。そして冠動脈の閉塞を伴う心筋梗塞(MI-CAD)と区別されるようになっています。したがって、MINOCAの診断には、心筋梗塞(急性冠症候群)に類似した症状を呈する非心臓由来の心筋の障害(敗血症、腎機能障害など)や、冠動脈疾患以外の原因による心筋障害(心筋炎、心筋症、心不全など)を除外する必要があります。
冠動脈疾患が原因として想定されるMINOCAには、冠動脈のプラーク(動脈硬化の強い病巣)の破綻・びらん、冠動脈のれん縮(強い収縮)、冠動脈の微小循環障害(CMD)、冠微小血管のれん縮、冠動脈の解離(特発性に発症する)、冠動脈の塞栓症などがあります。しかしMINOCAには、その発症が上述の冠動脈疾患による場合と、冠動脈疾患によらない場合がオーバーラップし、明確に区別できない病態も存在します。MINOCAはMI-CADと比べて若年で女性に多く、脂質異常症や糖尿病、高血圧、喫煙歴などの冠動脈疾患の危険因子を有する人が少なく、発症時には軽症である人が多いとの特徴は多く報告されています。またMINOCAでは心不全や心房細動の既往のほか、慢性の肺疾患、脳血管障害、末梢の動脈疾患、肝臓の障害、腎臓の障害などの全身性疾患を合併している人が多いとの報告があります。MINOCA発症の外的な環境因子として、PM2.5や黄砂などの大気汚染物質の短期的な曝露がリスクであることも報告されています。
MINOCAを発症した場合、その入院時および発症後12か月の生命予後はMI-CADと比べ良好と報告されており、また12か月後の心筋梗塞の再発においても、MI-CADと比べて有意に低かったと報告されています。(心不全の増悪には有意差はないと報告) 同様な生命予後は良好との報告は多数ありますが、逆の報告(MINOCAの生命予後はMI-CADと比べ不良)もあり、生命予後に関しては今後のさらなる研究の課題とされています。
MINOCAの発症時の生命予後不良の病態は、心原性ショックであることは理解されると思います。遠隔期の生命予後の不良因子としては、加齢、男性、喫煙歴、糖尿病、心不全、脳卒中の既往、末梢動脈疾患、心房細動などが指摘されています。一方、ある種の心臓病薬(RAS系)、脂質異常治療薬(スタチン)の服用は、全死亡や心血管疾患発症のリスク低下因子であることが報告されています。
MINOCAの診断は、心筋梗塞の診断および非閉塞性の冠動脈の証明、すなわち閉塞性冠動脈病変を認めないことによります。前記のように、MINOCAは冠動脈造影上50%以上の狭窄病変を認めない心筋梗塞ですが、冠動脈造影の時点で、MINOCAと冠動脈疾患以外の原因による心筋障害が特定できない場合があり、その場合MRIの使用が鑑別に有用とされています。
MINOCAの治療は、発症の原因病態が前述のようにさまざまであり、画一的に有効とされる治療法はありません。すなわち発症原因と考えられる各病態に対応した治療法をしていただくことになります。たとえば、プラークの破綻・びらんに対してはMI-CADと同様抗血小板薬、スタチンを主体としての服用、冠動脈のれん縮ではカルシウム拮抗薬の服用かつ飲酒、喫煙などの是正、冠動脈塞栓では抗凝固薬の内服などです。CMDに関しては内服薬の組み合わせが有効な場合はありますが、いまだ確立された治療法はありません。
以上、MINOCAに関して説明しました。MINOCAはMI-CADと比べ急性期に冠動脈をひろげる血管内治療は要しませんが、正確な原因病態の把握が必要で、かつ各々の原因病態に応じた対応(治療)が必要となります。

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