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大動脈瘤に対するリハビリテーション

大動脈瘤は無症状のうちに発症・進行し破裂による突然死をおこす原因不明の疾患です(以前のWebで記載)大動脈瘤は高齢男性に多く、ほとんどは腎動脈以下の腹部大動脈に発症します。大動脈壁が局所的に脆弱化し(原因は不明)径が徐々に拡大します。この過程は無症状であり、一方径が大きくなるほど破裂の危険度が増大し、破裂により突然死をきたすことが多いため、治療の主眼は破裂予防におかれます。また大動脈瘤の外科手術や血管内治療後の生活の質(ADL)や運動耐容能の向上を目的としたリハビリテーションも重要となります。今回は大動脈瘤に対するリハビリテーションを概説します。大動脈瘤に対するリハビリテーションは心臓領域にくらべて研究報告は少なく、リハビリテーション施行の方法・効果・評価法とも定まったものがないのが現状です。
しかし大動脈瘤の治療を受ける人は、心臓疾患の治療を受ける人とくらべ、より高齢でフレイル(虚弱な体質)を合併している割合が高く、また術後の残存病変の存在により慢性期の病状悪化のけねんも大きいため、適切なリハビリテーションの必要性がより高い現状となっています。
さらに大動脈瘤の治療に外科手術でない血管内治療(ステントグラフト内挿術など)が登場して以来、全身状態の悪い人に対しても血管内治療がおこなわれるようになり、このため高齢な人やフレイルの人の増加がみられます。そのため大動脈領域のリハビリテーションは生命予後とQOLが改善されることが期待できる分野となっているのです。大動脈領域のリハビリテーションはその病態・病期の違いにより以下の3つに分類できます。@大動脈瘤の侵襲的治療に対する術前のリハビリテーション、A大動脈瘤の侵襲的治療後のリハビリテーション、B大動脈解離をおこした人に対するリハビリテーション。@により大動脈瘤に対する手術リスクの低下や術後の合併症減少が期待できます。
また@をおこなうことを支持する研究報告は多数あります。しかし@をどの時期にどれだけの期間またはどの運動強度でおこなうかに対する定まった答えはありません。腹部大動脈瘤(瘤径<50mm)の人に対する運動療法(やや推奨されている)の例をあげます。有酸素運動(3回/週)(トレッドミル、自転車エルゴメータ、階段昇降など)を45分おこない、10分レジスタンス運動をおこなう。運動の強度は最大心拍数の60%〜80%の中等度の運動(自覚的にはややきついレベルの運動、ボルグ指数で12〜14)。期間は1年以上〜3年間です。また血圧の上昇を制限しながらの運動療法をおこなうことで大動脈瘤の拡大を予防するあるいは緩徐になるとの報告もあり注目されています。Aの目的は手術後の合併症の抑制や廃用症候群の予防となります。Aを大動脈瘤侵襲的治療後、急性期(入院時)のみおこなった人、回復期(退院後)もおこなった人の生命予後を比較した研究報告では、死亡率は両方の群で有意な差はみられなかったが、長期におこなうことによるQOLの改善、運動の安全性は確認できたとされています。
またAは動脈硬化に対する危険因子(血圧、糖、脂質など)の改善、抗炎症作用、血管内皮機能改善作用を有すると推察されています。Bは発症急性期に侵襲的治療を必要としないと判断された人におこなうリハビリテーションとなりますが、急性期(発症14日以内)や亜急性期(発症3ヶ月以内)に侵襲的治療が必要となる場合(破裂、切迫破裂、再発または持続する疼痛、コントロール不可能となる高血圧、急速に拡大する大動脈瘤解離など)があり、慎重な観察・リハビリは必要です。急性期〜亜急性期では一般的には収縮期血圧≦120mmg、心拍数<60/分(安静期)収縮期血圧を≦140mmHg、心拍数<100/分(運動期)を目標としておこないます。また問題が生じなければ慢性期(発症3ヶ月以降)にかけて以下のような比較的高強度の運動や術前と同様の活動性を目安にすることも推奨されています。(ハイキング、ゴルフ、テニス、サイクリング、3〜5METの有酸素運動30分/日を150分/週以上おこなう)以上大動脈瘤に対するリハビリテーションを既説しました。
リハビリテーションによる大血管に対する保護的な作用機序として、運動後の末梢の血管の抵抗の減少や自律神経機能の改善によって運動中の血圧の上昇が安定化する。その他抗患症作用、血管の内皮機能改善などが考えられており、リハビリテーションは大動脈拡大と破裂を予防するための重要な治療の一つと考えられているのです。

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