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INOCA

胸骨下の絞扼感などの典型的な狭心痛、放散痛、息切れなどの狭心症に相当する症状、あるいは心筋の虚血を示唆する非侵襲的検査の結果などから、狭心症が疑われ冠動脈造影検査をうけた人の約半数は冠動脈に器質的な有意の狭窄病変を認めないことが知られています。しかしこれらの人は冠動脈機能の異常の高い罹患率、生命予後への悪影響、生活の質(QOL)の低下、不安定狭心症による入院などによって医療費の負担の増大などが明らかになっており、その臨床的重要性が注目されています。このような冠動脈の閉塞に伴わない心筋の虚血をINOCAという概念で2017年に米国より提唱されました。現在ではINOCAは次のように定義されています。@安定した慢性的な(数週間以上)胸部の症状(典型的な狭心痛)や非典型的な症状を有する。A心筋の虚血を表す客観的な検査所見(安静時または負荷時の心電図、心エコー、MRIなど)を認めるB冠動脈造影や冠動脈CTで50%以上の器質的狭窄や血流の予備量比(FFR)の低下などで定義される生理的・機能的虚血を生じる狭窄がないこと。INOCAにおける心筋の虚血の2大成因は冠動脈の攣縮とCMD(冠動脈微小循環障害)です。CMDは冠動脈微少血管の構造的・器質的または機能的な異常に起因し、@血管収縮性の亢進(微小血管攣縮(MVS)) A血管の拡張不全(血管の内皮の障害(内皮依存性)または平滑筋の障害(内皮非依存性))B冠動脈微少血管抵抗の増大(微少血管の内腔の狭窄、微少血管の変形、心肥大に伴う血管外からの圧排など)が単独または種々の組み合わせで心筋の虚血が生じるものです。CMDの診断に関しては心臓カテーテル検査による冠動脈の機能の評価が推奨されており、その場合、冠動脈微少血管の拡張の障害、微少血管の血流に対する抵抗性の亢進、それによる冠動脈の血流速度の低下(スローフロー現象)、冠微少血管の攣縮のいずれかで診断されます。冠動脈の攣縮やCMDは心外膜の冠動脈の器質的な狭窄によらずに単独あるいは閉塞のない冠動脈疾患との組み合わせで、心筋の酸素の需要と供給の不均衡から心筋虚血を引きおこします。心筋の虚血の機序は心外膜の冠動脈または冠微少血管の構造的または機能的な異常に分けられます。冠動脈の攣縮は心外膜の冠動脈または微少冠動脈の攣縮により一過性に冠動脈の血流が低下することで心筋の虚血が生じます。
一方CMDでみられる冠動脈微少血管の代謝性の拡張の不全や冠動脈微少血管の抵抗の増大は、労作性の狭心症と同様に心筋の酸素消費量の増大時に心筋の虚血を生じます。
ICONAにおける冠動脈の攣縮とCMD罹患率を検討した最近の研究では、冠動脈の攣縮は40%、CMDは41%、両方の合併は23%、微少血管狭心症は24%に認められたとされています。(CMDでは女性が男性より1.45倍多かった)重要なことは、これらの心外膜の冠動脈および冠動脈微少血管の攣縮を含む器質的・機能的な異常は個々の人において種々の程度で重複して存在することが多く、生命予後や治療の方法に影響を与える可能性がある点なのです。2020年に発表されたEAPCIの専門家の会議ではINOCAを次の5つのタイプに分類することを提唱しています。@微少血管狭心症 A冠攣縮性狭心症 B微少血管症心象+冠攣縮性狭心症 C非心原性の胸痛症候群 D生理的/機能的虚血を生じない冠動脈疾患。INOCAの診断すなわち冠動脈の攣縮およびCMDの診断に関しては心臓カテーテル検査による包括的な冠動脈の機能評価が推奨されていますが、その方法に関しては現在のところ統一されていません。これはINOCAに関する情報、知識、そして認識がまだ不十分であることが影響していると考えられます。INOCAの治療は前期のタイプ分類@、Aに対する治療薬はおおむね有効と思われる薬はあるものの、研究段階のものもあり、今後の成果発展が期待されます。
以上、INOCAに関して概説しました。INOCAは新しい概念であり、その詳細な基準は今後の研究の蓄積に託されていると考えられます。

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