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高TG(トリグリセライド)血症 その病的意義

動脈硬化性心疾患の発症抑制のためにLDL-コレストロール(LDL-C)を低下させる薬スタチンが開発市場に提供されてから半世紀弱が経過しました。近年ではLDL-C低下作用の強力なスタチン(ストロングスタチン)が市場に供給されています。それらの使用により動脈硬化性疾患の発症は抑制されてきました。
しかし、その使用による発症抑制は20〜30%前後とされており、これはスタチンを使用してLDL-Cを低下させても、なおかつ多くの動脈硬化性疾患の発症リスクがあることを示しています。これを残余リスクといいます。
高TG血症は従来より空腹時採血で150mg/dl以上を基準とされています。しかし近年では、TGの評価は空腹時より食後などの随時での値の方がむしろ心血管疾患発症の予測能が高いことが多く報告されてきました。
たとえば、わが国の疫学調査では随時TG167mg/dl以上で心筋梗塞、労作性狭心症、突然死などの虚血性心疾患の発症リスクが増加することが報告されており、また脳梗塞の発症リスクも高TG血症と関連するとの報告も多く見受けます。
さらに随時のTGが210mg/dl以上の場合は150〜179mg/dlの場合と比較して心血管死亡リスクが上昇したことも示されています。以上のことなどによりわが国では2022年より空腹時TG150mg/dl以上、随時のTG175mg/dl以上を高TG血症の基準とすることが定められました。
高TG血症を惹起する背景には食生活によるものを多く認めますが、糖尿病、肥満、飲酒などの要因によるものも頻度は高く重要です。高TG血症の臨床的な意義は@急性膵炎のリスクA動脈硬化性疾患のリスクということになります。@はTGが1000mg/dlを超える場合におこり、これは先天性とくに原発性高カイクミクロン血症という希少な指定難病でおこりうりますが、多くの場合多量の飲酒により認められます。
Aは概ね1000mg/dlまでの高値でなります。すなわち随時高TG血症の人は空腹時高TG血症の人と同等あるいはそれ以上に動脈硬化性疾患の発症が前記したように認められます。健康診断での随時TG値の上昇がコレストロール値とは独立して心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、突然死)の増加と関連することも示されています。
そこで高TG血症の背景にはTGに富んだリポ蛋白(血液中には水にとけない脂質を、吸収部位や合成部位から使用部位へ運搬するための粒子)の増加つまりレムナントリポ蛋白の増加があることを知る必要があります。
レムナントリポ蛋白はTG値と強い相関があり、その増加はLDL-Cの増加やHDL-Cの低下とは独立して動脈硬化性疾患と関連しているということなのです。(LDL-Cと同等もしくはそれ以上に動脈硬化を惹起するとされている)それでは高TG血症を是正するのにはどうすればよいのでしょうか。
基本となるのは食事療法です。それは@食物繊維の摂取:小腸での脂質の吸収を遅らせ食後の高TG血症を抑制するAポリフェノールの摂取:抗酸化作用や酸化ストレス抑制作用が期待できるBEPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドユサヘキサエン酸)の摂取:これらの多価不飽和脂肪は飽和脂肪酸とくらべ小腸から吸収されにくくTG値を抑制する。などです。これらをおこなったうえで、なお高TG血症を認める場合は薬物療法が推奨されます。薬物は脂質代謝異常治療薬や一部の糖尿病治療薬があげられます。
脂質代謝異常治療薬の中で、近年多く使用されている薬はEPA製剤があります。これは心血管疾患抑制の報告があるからです。事実スタチンにEPA製剤を追加することにより心血管疾患発症が有意に抑制されています。
ストロングスタチンはLDL-Cを低下させるために服用されますが、TG値も20〜30%程度低下させることが知られています。
また食後高脂血症の改善、レムナントリポ蛋白の低下効果も報告されています。
スタチンとは異なる機序でLDL-Cを低下させる薬もおおむね20〜30%TG値を低下させ随時高TG値に対しても有効なことが報告されています。以前よりTG値を低下させるために使用されていたフィブラート制剤はスタチンとの併用で肝障害や腎障害を惹起させる懸念がありましたが、近年新規に上市されたフィブラート制剤はその懸念は少ないばかりか、肝機能の改善の期待がありその効果は検討されており服薬もしやすくなっています。
糖尿病治療薬にもある種のものでは血糖値はもちろん、TG値を改善させることが知られており、糖尿病かつ高TG値の人にはその使用が考慮されます。これらの薬物以外に現在開発中の薬もあり、近々に上市されるかもしれません。
以上、高TG血症について記載しましたが、高TG血症が一般的に多く認められ、そして動脈硬化性疾患、膵炎などの発症と関連することは明らかであり、病態・背景を評価し、診断・治療を積極的に進めていく必要があるのです。

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