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心不全と高血圧

高血圧は心不全の基礎疾患としてもっとも頻度が高い疾患です。心不全は以前のWebでも記したようにその発症の危険因子はもつが、器質的な心臓の異常あるいは心不全症候がないステージAから治療抵抗性の心不全であるステージDまで4つのステージが分類が示されていますが、高血圧はそのすべてのステージにおける増悪因子であり心不全入院の独立した予測因子になります。したがって厳格な降圧が必要となります。
心不全は大きく分けて左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)に分類されます。(左室駆出率の軽度低下した心不全(HFmrEF)、左室駆出率の改善した心不全(HFrecEF)、左室駆出率が悪化した心不全(HFworEF)、左室駆出率が変化しない心不全(HFancEF)などの左室駆出率を細分化、あるいは左室駆出率の経時的変化をみた分類もされることはあります。)
HFrEFでは血圧が正常か低い人が多く、したがって降圧薬は血圧を低下させる目的のために使用されるのではなく、Q0L(生活の質)を改善し、心不全の再入院を抑制し、生命予後を改善させるために多くの場合用いられます。そのためのHFrEFに対する標準的薬物治療は決まっています。実際、その使用により心不全再入院は減少し、長期的生命予後の改善は示されています。しかしその使用により人によっては心不全の悪化・低血圧・徐脈・腎機能の低下などが出現することがあり、そのため使用される薬は少量から緩徐にその人の最大忍容量まで漸増されることが必要です。HFrEFでは、病因、病態や併存疾患に応じた個別の治療が重要となるため、一概に降圧目標値を定めることはできません。したがって明らかに証明されたものはありませんがわが国における心不全においては収縮期血圧が110〜130mmHgでの管理が推奨されています。しかしQOL、生命予後の改善のためには、忍容性があれば、これより低い血圧レベルでの薬物治療が必要となることも多くあります。一方HFrEFに高血圧が合併すると、左室駆出率の低下、左室の形態の悪化(リモデリング)などが進行するため、他の降圧薬を追加することもあります。HFpEFはうっ血性心不全の約50%をしめ、左室の拡張機能障害と血管の硬化が主な病態生理となります。HFpEFは高齢者、特に女性に多く、60〜90%に高血圧が合併します。高血圧では早期から拡張機能障害を認めます。そのため降圧により、心臓の肥大・心筋の繊維化の軽減による拡張機能障害の進展予防・改善、末梢の血管抵抗の低下・血管の硬化予防による心臓の血液拍出時の負担軽減が期待できます。HFpEFはHFrEFとは異なり利尿薬の使用が以前より推奨されるのみで心不全の再入院期間や生命予後を改善させる薬物はありませんでした。しかし近年1種類の薬がその服用により左記がある程度可能となることが示され、その使用が推奨されています。その他には数種類の新薬が上市され、HFrEFに対しては有効ではあるものの、HFpEFに対する効果は深く研究はされていはいるものの明らかな効果は証明されていません。HFpEFに対する降圧目標は、生命予後の改善の証明は十分ではありませんが、心不全入院を予防するために、収縮期血圧を130mmHg未満とすることが示されています。また頻脈、特に心房細動は急性増悪の誘因となるため、その予防、適切な心拍数のコントロールは重要とされています。また合併頻度が高い糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、脂質異常症、肥満などの管理も重要となります。冠動脈疾患も拡張機能障害をおこすため、その可能性の考慮も大切となります。HFrEFにしろHFpEFにしろ、血圧上昇を伴う急性心不全・急性増悪には、末梢の血管抵抗の過剰な増大により血圧が上昇し、左心室が過剰な負担を受けている場合、不十分な高血圧の治療のためHFpEFが発症した場合、高血圧を合併した急性冠症候群から発症した場合などがありますが、この場合は病態に合わせた治療が早急におこなわれる必要があるため、それらの治療が可能な循環器の専門施設に早急に受診する必要があります。
またHFrEF、HFpEFはともに急性期の治療により症状・徹候が安定した場合でも、容易に急性増悪をおこし非代償性心不全をくり返します。この急性増悪を惹起する重要な危険因子には、高血圧に加えて、感染、心房細動、などの頻脈、心筋の虚血、貧血、食塩・水分の過剰な摂取、過労や過剰な肉体労働、服薬の中断などがあります。また脱水による腎機能低下にも注意する必要があります。そのため家庭内での体重・血圧・体温・脈拍などの測定が急性増悪の早期の予知には有用となります。 以上今回は心不全と血圧の関与を中心として説明しました。