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女性と冠動脈疾患

世界的にみると心筋梗塞の発症率は女性は男性よりも低いことが知られています。年齢の増加と伴に女性の発症率は増加しますが、依然として男性よりも低率です。一方、心筋梗塞発症後の死亡率は女性は男性よりも高く、したがって冠動脈疾患(CAD)発症率の加齢に伴う増加、日本人女性の高齢化の進行と合わせて、今後女性のCAD発症・死亡の増加をみすえた対策は重要となります。そのためには女性における冠動脈疾患の危険因子を知ることは重要です。それは動脈硬化危険因子と共通する以下の事項が主となります。・血清脂質:男性ではLDL-コレステロール(LDL-C)は年齢による特徴は示しませんが、女性は閉経に伴うエストロゲン低下により血清脂質は変化し、特にLDL-Cの上昇がCAD発症率増加に寄与していると考えられています。トリグリセライド(TG)も同様で、50歳前は男性より低値で推移しますが、50歳をすぎると上昇して男性の値に近づきます。HDLコレステロール(HDL-C)は男女ともに年齢による変化は示さず、女性で高値を推移します。その長期的な影響に関して多くの研究がされてきましたが、そうじて総コレステロール(TC)、LDL-C、TGなどの高値は、女性のCADの危険因子であることが示されています。HDL-Cの低値もCADの危険因子としてあげられています。・糖尿病:糖尿病は日本人を対象とした研究で女性のCAD発症やCADによる死亡を有意に高めることは示されています。さらにCAD発症のリスクは男性よりも高いことも示されています。しがたって糖尿病を強く疑われる人は女性は男性よりも少ない一方で、糖尿病を発症すると女性においては糖尿病はCADの重要なリスクとなるのです。・喫煙:現在喫煙している日本人女性の心筋梗塞発症リスクは非喫煙女性とくらべ3〜8倍高く、またCADによる死亡のリスクも大きいことも示されています。習慣的喫煙率は女性は男性よりも低い事実はあるものの、女性における喫煙はCADの重要な危険因子としてとらえる必要はあります。・血圧:血圧とCAD発症に関しては以前のWebで記載しました。血圧とCAD発症リスクは男女をとわず、血圧が115/75mmHgまでは血圧が低いほどリスクは低く(the lower the betterという)それよりも高くなるとリスクは高くなります。上記をふまえ女性の冠動脈疾患の予防を示します。それは男女問わず健康的な食生活・非喫煙・中等度以上の運動週間・適正な体重の維持・アルコール制限などをおこなうことです。それによりCADの発症や心臓の突然死のリスクの低下は示されています。つまり、女性におても若年時からの健康的な生活習慣の維持がCAD発症予防のかなめとなるのです。特に糖尿病は先に示したように女性においてはCADの重要な危険因子であるため、低血糖に注意し、個々の病態に配慮した厳格な血糖のコントロールを考慮すべきとされています。また喫煙も女性において重要なCADの危険因子です。禁煙を一定期間すると禁煙女性のCADによる死亡のリスクは非喫煙女性と差がないことも示されており、禁煙にむけた動機づけになると考えられます。脂質異常は脂質治療薬(スタチン)の服用により、男性と有意な差は認めなく、CADの一次予防に有効と考えられています。最後にホルモン補充療法(HRT)について記載します。閉経後女性におけるCAD発症率の増加はエストロゲン低下による血清LDL-Cの上昇が大きく寄与していると考えられており、そのためHRTにはCAD発症予防効果が期待され、多くの研究がおこなわれてきました。それらの内、示唆に富む研究報告をあげてみます。閉経後10年以上でHRTを開始した女性のCADの発症リスクは、HRTをしなかった人とくらべ1.07倍と上昇していました。それに反し閉経後10年未満でHRTを開始した女性は、HRTをしなかった人とくらべCADの発症リスクは0.52倍と減少していました。この意味するところは動脈硬化が進展していない閉経移行期でのHRT施行は脂質プロファイルや血管の内皮への作用によりCADに対して予防的効果を示す。一方すでにプラーク(動脈硬化の強い病巣)が完成した高齢者に対するHRT施行(エストロゲン投与)はプラークの破綻や動脈血栓形成を促進することにより、かえってCADを増加させるということになります。この報告と同様な報告はあり、それらの知見により日本女性医学学会では、女性の動脈硬化性疾患予防のため、脂質異常症を有し、更年期障病のある女性の場合、生活習慣の改善を試みると同時にHRTをおこなうことを推奨しています。ただし、心筋梗塞やCADの既応がある人はHRTは禁忌。肥満、60歳以上または閉経後10年以上の新規の開始、冠攣縮および微少血管狭心症の既応、重度の高TG血症、コントロール不良な糖尿病や高血圧がある人はHRTは慎重に開始するとしています。
以上女性と冠動脈疾患について既説しました。