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腎実質性高血圧

腎臓は血圧調整に重要な役割をになっており、慢性腎臓病(CKD)では高血圧を発症することを多く認めます。CKDによる高血圧では夜間の血圧低下が消失するなどの日内リズムの異常がみられ、脳心管病の発症のリスクとなります。またCKDには睡眠時無呼吸が高率に合併し、高血圧の重症化の原因になることも指摘されています。このCKDを誘発するあるいはCKDが要因となる高血圧の中に、腎動脈または腎内の比較的大きな動脈に狭窄が生じて発症する腎血管性高血圧や腎臓の実質性疾患によって惹起される腎実質性高血圧があります。腎実質性高血圧の成因には体液量の増大やレニンーアルドステロン(RA)系とよばれる一連のホルモン系の亢進などが関与します。二次性高血圧のなかでは頻度が高く、高血圧全体の2〜5%を占めるとされています。
腎実質性高血圧は、CKDと本態性高血圧の合併や高血圧により腎障害が生じている(腎硬化症)場合とは厳密には区別されます。腎実質性高血圧の診断では、高血圧に先行する腎障害が存在することを確認することが決め手となります。そのためには検診などでの尿所見と血圧の経過の把握が重要となります。検尿での蛋白尿・血尿・種々の円柱(尿細管内容がゲル化して円柱状に固まったもの)の存在など多彩な尿の所見が高血圧の発症に先行して認められる場合には、腎実質性疾患の存在が疑われます。過去の検査所見や経過が不明である場合は、現在の尿所見が腎実質性高血圧と腎硬化症の鑑別に有用となります。それは尿蛋白が1g/日以上ある場合には、原発性の系球体疾患(腎実質性疾患)と考えてほぼ間違いないというということです。腎硬化症では、腎不全症や悪性高血圧の人を除けば、尿蛋白は多くても1g/日以下(ほとんどの場合0.5g/日以下)だからです。しかし薬剤性腎炎など腎の間質(腎臓内の糸球体や尿細管をとりまく組織)が主病変となる腎臓の疾患では尿蛋白は少ないことは多く、その場合は尿濃縮への障害や他の全身所見を参考にすることが有用となります。また腎硬化症では肉眼的な血尿を認めることはありませんが、原発生の糸球体疾患では糸球体よりの出血を認めることは多くあります。さらに尿中に赤血球の円柱を認めることはほぼないからです。
したがって検尿は高血圧の人では全員施行してもらう必要があります。そしてその継続した異常を認める場合には、腹部エコーやCTにより腎実質性疾患の診断の補助のために、腎臓の形態の評価をおこないます。
これらによって診断された腎実質性疾患たとえば慢性系球体腎炎などの糸球体疾患や多発性のう胞腎(両側の腎臓の皮質と髄質に多数ののう胞が形成され、実質の萎縮と線維化を生じる疾患)では比較的早期から血圧は上昇します。そして高血圧が持続することでさらに腎障害(CKD)が進行し、その結果、高血圧も重症化するという悪循環が形成されます。したがって腎実質性高血圧の治療は極めて重要となります。そしてその降圧も同様です。腎実質性高血圧の降圧では、やはり生活習慣の修正がまずは必要です。
それは食塩制限(6g/日未満を目指す)適正体重の維持(肥満はCKDから末期腎不全への移行に関与することが示されている。減量は尿中アルブミンを減少させる)禁煙(喫煙は尿蛋白や腎機能低下に悪影響を及ぼす。また脳心血管病のリスクとなる)。腎機能に応じた蛋白質の摂取制限が基本となります。生活習慣の修正をおこなっても血圧が目標とする血圧レベル以上の場合には、降圧薬の服用をおこなうことが必要となります。
降圧目標は尿中に蛋白を認める人の場合130/80mmHg未満を目指します。尿中に蛋白を認めなくても糖尿病のある人では同様に130/80mmHg未満を目指します。尿中に蛋白を認めなく、糖尿病のない人では130/80mmHg未満に降圧した場合に脳心血管病の発症予防や末期腎不全への進展の抑制を証明した研究はなく、したがってそれよりも緩徐な140/90mmHg未満への降圧を目指すことが推奨されます。
そして降圧目標を維持することにより、CKDの進展抑制が得られる可能性が高いと考えられます。 また高血圧をきたす、実質性疾患自体では早期な診断、治療により予後が改善される可能性があるため、腎臓の専門医の介入が必要です。以上、腎実質性高血圧を概説しました。