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多発性嚢胞腎

多発性嚢胞腎(ADPKD)は常染色体顕性であり、60歳台までに約半数の人が末期腎不全に至ります。両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し、高血圧や肝嚢胞、脳動脈瘤などを合併します。日本におけるADPKDの患者さんは約31000人と推計されており、これは4000人強に1人の割合となり、まれな疾患ではありません。
ADPKDの人は、その多くが人間ドックなどの健康診断で腹部超音波検査・CT・MRIで腎臓や肝臓に複数の嚢胞が認められて医療機関を受診する。あるいは高血圧、腹痛、背部痛、腹部膨満感、肉眼的な血尿などの症状や、検尿の異常や腎機能の異常を指摘されて受診することを多く認めます。ADPKDは上記の典型的な所見がある場合は診断は難しくありませんが、嚢胞が少ない場合や腎臓の腫大(複数の嚢胞による)が認められなく診断に迷う場合は、腎臓専門医へ受診してもらうことになります。ADPKDと診断された人は病態の進行や合併症を知るために次のような検査をしていただきます。・慢性臓病の段階を知るために推算糸球体濾過量(eGFR)、尿中蛋白の測定。・頭部MRIで合併症としておこりうる脳動脈瘤のスクリーニング。・心臓超音波検査による心臓の合併症の有無。・腹部CTあるいは腹部MRIで両側腎容積(TKV)の測定。これらのうち腎機能悪化の予後予測指標である高血圧の合併は重要な問題となります。高血圧はADPKDの人の50〜80%に認められる最も頻度の高い合併症であり、その半数の人では腎機能が悪化する前より認められ、平均発症年齢は30歳台とされています。ADPKDでは、腎嚢胞が拡大することで腎の実質に虚血性変化が生じ、腎より分泌されるレニン(昇圧ホルモン)の分泌亢進が生じ高血圧に関与すると考えられています。高血圧はTKVとともに腎機能低下の予測指標であり、高血圧発症年齢が若いほど腎不全のリスクは高くなります。そのため高血圧を合併したADPKDに対して、蛋白尿を抑制し、末期腎不全への進展抑制効果が期待できるレニンアンギオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬もしくはARB)の服用による降圧療法がおこなわれます。その目標とする血圧への降圧はCKDに準じておこなわれます。すなわち蛋白尿のない人では血圧140/90mmHg未満、蛋白尿のある人では130/80mmHg未満です。一方、末期腎不全への進行が速いと予測される人(ADPKDリスク分類として用いられるMayoクラス分類による)では、アルブミン尿抑制効果、心臓の左心室の心筋重量係数の改善、腎容積増大の抑制効果が示されたために、50歳未満でeGFR>60ml/分1.73u以上のADPKDの人では、さらに厳格な降圧療法(降圧目標値110/75mmHg未満)の実施が提案されています。しかしこの場合、約80%の人にめまいやふらつきの症状が出現したため、その実施には充分な注意が必要です。一方、高血圧など合併症のあるなしにかかわらず、ADPKDでは「TKV750ml以上かつ年間増大率(腎の)5%以上」かつ「eGFR>60ml/分1.73u」の適応規準を満たす人ではトルバプタンの服用が強い推奨のもとおこなわれます。
それはトルバプタンの服用により腎機能低下抑制効果、医療への介入を要する腎臓痛の発生抑制、尿中アルブミン排泄抑制、TKVの増大抑制効果などが示されており、つまり末期腎不全への進展抑制効果の延長が期待できるためです。 一方、これらの優れた効果を有する半面、トルバプタンは利尿薬としての作用を有するため、その服用により副反応として、多飲、多尿、頻尿が高頻度に出現します。また肝機能障害も出現する頻度はやや多く、その場合は肝障害の程度により服用を中止することとなります。
また、トルバプタンの服用の適応規準を満たさない人は、CKDとしての診療を受けられることは必要であり重要です。この場合腎機能の推移・評価などの判断が必要となるため、腎臓専門医とかかりつけ医の連携による診療が必要とされます。
以上、ADPKDについて概説しました。ADPKDはまれな疾病ではありません。早期は症状もないことが多く、その予知のため、定期的な健診をお勧めします。