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睡眠(特に睡眠呼吸障害)と不整脈

正常睡眠で糖質的心疾患を伴わなくても徐脈性(脈拍数が少ない)不整脈を認めることはまれではありません。洞性徐脈(普通の調律だが50拍/分以下の調律となること)は睡眠中におこる徐脈性不整脈のなかでもっとも頻度は高く認められますが、その他にも洞静止、洞房ブロック、房室ブロック、接合部調律(覚える必要はない、診療時にみられたら説明します。)が睡眠中に認められます。これら睡眠中の徐脈の機序としてノンレム睡眠における交感神経活性の減弱と副交感神経活性の亢進が提唱されています。
これらの徐脈は若年層やアスリートでとくに頻度が高く、中高年になるにつれて低下するといわれています。
睡眠中の徐脈の多くは生理的な反応であり無症候性であるため、治療介入の必要はありません。 実際、睡眠中に生じる洞性徐脈や一過性の洞静止・房室伝導障害に対しては、ペースメーカーの植込みをおこなうべきではないとされています。睡脈呼吸障害(SDB)においても睡眠中の徐脈性不整脈は頻度は高く認めますが、この場合おもに無呼吸時に徐脈や伝導障害を頻回に認めます。徐脈頻脈反応(徐脈の終了後に頻脈になる事象)も出現しますが、この場合無呼吸発作時に徐脈となり、無呼吸発作の終了時に頻脈や高血圧となることは知られています。酸素投与により徐脈が改善することも報告されています。睡眠時無呼吸発作に伴う夜間の徐脈性不整脈を有する人は無症状なことが多く、日中に徐脈の出現を呈する人はまれです。SDBを呈する人における夜間の睡眠に関連した徐脈性不整脈の頻度はSDBに対する治療(主として間欠的陽圧呼吸(CPAP))により劇的に減少します。
またペースメーカー植込み適応があるとして不整脈医に紹介された無症候の睡眠に関連した徐脈性不整脈の人にSDBのスクリーニングをおこなったところ、全員にSDBがあることが判明し、SDBを治療することにより無呼吸に関連した症候がやわらぎ、大部分の人でペースメーカー植込みの必要がなくなることにつながったとの報告もあります。したがって夜間に徐脈を認める人にSDBのスクリーニングをおこない、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を合併していた場合には、睡眠中のCPAPなどのSDBに対する治療が推奨されます。肥満をおもちの場合、減量も重要です。つぎにSDBにおける頻脈性不整脈発作を説明します。頻脈性不整脈はSDBによる胸腔内圧の変動、周期的な低酸素血症、自律神経の活性の変化が発生に深く関与するとされています。
その中には治療介入を必要としない無症状の心房性期外収縮・心室性期外吸収縮から、心臓突然死につながる致死性不整脈までさまざまなものがあり、また心房細動のように不整脈自体の緊急性はないものの、心不全や脳梗塞の発症リスクが高まるものもあります。これらの不整脈は生活習慣病をはじめとする多くの併存疾患と関連があるため、不整脈の治療だけでは不充分なことが多く、包括的な治療を必要とします。たとえば心房性期外収縮と心室性期外収縮とでは、その発生機序は異なりますが、不整脈のトリガーとなるSDBや併存疾患、基礎疾患への適切な治療介入がないと、ある時期に、心房細動や致死性不整脈の発症につながることになります。
SDBに合併する心房細動は新規に発症するリスクは経時的に増加するため、SDBでは心房細動の併発のリスクを評価し、SDBのスクリーニングを検討することが重要とされています。そしてSDBに心房細動が合併した場合、有症候性の発作性心房細動の人と同じく、カテーテルを体内に入れる血管内治療であるカテーテルアブレーションが治療として推奨されます。しかしこの場合SDB(OSAを含め)に対する適切なCPAPなどの治療がないと有意に心房細動の再発率が高くなることが示されています。一方でカテーテルアブレーション後のCPAP治療をされた人では、治療をされなかった人とくらべ、心房細動再発率が有意に抑制されることも報告されています。この場合、禁酒や体重管理も心房細動発症予防に有効であり、包括的な治療は重要です。
次に心塞性不整脈・突然死とSDBを考察すると、左記の発症機序を検討した報告は多くありませんが、SDBに伴う全身の低酸素血症が心室の虚血を惹起し、突然死をきたす心室の構造あるいは電気的な変移に寄与すると考えられています。実際SDB(OSAを含む)の人の心臓突然死の頻度に関する報告では、睡眠中の最低酸素飽和度は心臓突然死の独立したリスク因子(10%低下ごとに14%のリスク増加)であることが示されています。
OSAと心臓突然死は共通するリスク因子を有していますが、そのなかで心不全や冠動脈病変の併発の関与が強いことが推定されています。心臓突然死は起床後の6時から12時までの間に発生する日内変動が多いことが知られています。
しかしOSAの人々は真夜中の12時から朝6時までの間に突然死発症リスクが高いことが報告されています。
この場合就寝中に突然死に至らない心塞性不整脈を生じたとしても症状を自覚する可能性は低くなります。
したがって突然死を含む心塞性不整脈の発症に対する治療としては、体内に除細動器を植込む治療が必要となります。この場合、除細動器(ICD)が適切に作動し、不整脈から回帰することが多いことが示されています。
無呼吸低呼吸指数(AHI)≧10の人はAHI≦10の人にくらべて夜間帯(0時から6時)のICD適切な作動が有意に高いことも報告されています。
CPAPの使用に関しては、それによる心臓突然死の予防効果はあるという報告とないという報告があり、明らかになっていません。今後の課題とされています。
以上、睡眠(特にSDB)と不整脈に関して説明しました。