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バージャー病とは (再編)

バージャー病は閉塞性血栓血管炎(TAO)とよばれ、四肢末梢の動脈と静脈に分節的に炎症性の血栓閉塞を生じます。発症は30〜40歳代前後の男性に多く、喫煙との関連が深い疾病です。四肢は虚血によってしばしば末梢部に潰瘍や壊疽を生じ、ときに遊走性/逍遥性静脈炎を伴います。生命予後は良好ですが、禁煙できなければ症状は進行します。指趾や肢の切断にいたるとQOLは著しく低下します。バージャー病は私が勤務医時代には時に拝診したこともありましたが、現在はその発症が急速に減少し、2010年代には人口が万人あたり0.1人程度の発症と推定されいます。典型的には若年発症で、ヘビースモーカーの男性に好発しますが、女性の発症割合も増加傾向がみられ、女性の喫煙者の増加との関係が示唆されています。
バージャー病の発症の原因は明らかではありませんが、喫煙以外に感染、栄養障害、自己免疫、慢性歯周感染症の関与も指摘されています。バージャー病は通常、下腿末梢や前腕末梢の動脈に始まり、中枢側へと進展します。上肢の疼痛(しばしば手部から生じる)、足底筋の間欠性跛行(下腿動脈の末梢の閉塞による)、指趾の虚血性の紅潮(四肢を下垂しなくても認め、末梢の静脈の血流のうっ滞が示唆されている)、遊走性/逍遥性静脈炎(皮下の静脈の線状の発赤、硬結、疼痛を示す)を認めます。その他に指趾の安静時疼痛(疼痛は強く、睡眠を妨害することも多い)、指趾の潰瘍・壊死(爪周囲に生じやすい。しばしば急速に進行する)四肢の冷感、しびれ感(発作、チアノーゼなど)も症状として認めることがあります。バージャー病の診断は上記症状と血管の画像検査、そして同様な症状を呈しうる閉塞性動脈硬化症などを除外することによりおこなわれます。血管の画像検査とは、それにより動脈の閉塞様式(動脈が途絶している、先細りに閉塞しているなど)を判断するためにおこなわれます。臨床的な診断基準は世界的に合意されたものは現在認めませんが、ひとつの規準として(1)50歳未満の発症(2)喫煙歴を有する(3)膝窩動脈以下の閉塞がある(4)上肢の動脈の閉塞があるまたは遊走性静脈炎がある(5)喫煙以外に動脈硬化の危険因子を有さない、の5項目をすべて満たす。が提唱されています。しかし、この規準は症状がでそろった状態ともいえ、バージャー病の人の30%程度にしか認めません。したがって先述の症状や画像検査、他の疾患との鑑別により診断することが可能で多いと考えられます。バージャー病の治療は、まずは禁煙が必要です。症状は禁煙と四肢の保護によってしばしば改善し、喫煙の継続によって増悪するからです。薬物療法も対象療法となりますがおこないます。そして重度の虚血におちいった四肢にたいしては、血行再建術をおこないます。ただし末梢の動脈の罹患が多いため、手術が困難な場合も多く認めます。その場合は、カテーテルをもちいた血管内治療などが考慮されます。そして、これらの施行治療が困難な場合には臨床状態の改善が報告されている遺伝子治療を用いることもあります。しかし、これらの治療で改善しない潰瘍や疼痛、広範囲な壊死や荷重がかかる部位の壊死、制御できない感染を伴う場合などでは、肢の切断もやむえなくおこなわれることになります。バージャー病の生命予後は一般人の生命予後と差はないとされています。これは症状の再発再燃により四肢の切断を繰り返す人は20%程度であること、60歳をすぎれば疾患の再燃による肢切断をする人はまれである、などによることです。
以上、バージャー病について概説しました。バージャー病は罹患する人は少なくなっている病気ですが、上肢・下肢の疼痛などを呈する人は知っておいていただきたい病気です。