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加速型―悪性高血圧

加速型―悪性高血圧は血圧測定において拡張期血圧(下の血圧)が120〜130mmHg以上あり、腎機能障害が急速に進行し、放置すると全身状態が急激に悪化し、心不全、高血圧性脳症、脳出血などを発症する生命予後の不良な病態です。高度な高血圧が長期間持続することにより、病理学的には細動脈の内皮の障害、血管壁への血漿成分が侵入し、それによるフィブリノイド壊死及び増殖成内膜炎が見られることが特徴で、腎臓の病理所見は悪性腎硬化症とよばれています。このような病態では進行性の腎機能障害と血圧上昇の悪循環を生じます。他の臓器たとえば目の眼底においては網膜の出血、網膜の浮腫が生じれば高血圧性脳症(以前のWebで説明)となりうります。これらの病態を生じる高血圧は以前は悪性高血圧とそれよりやや緊急度の低い加速型高血圧に区別していましたが、この両者の臓器障害の進行や生命予後に差がないため現在では加速型―悪性高血圧に統一されてよばれています。そして、この血圧の発症には最初に高血圧を指摘された時点での血圧が高いこと、降圧治療の中断、長期にわたる精神的・肉体的負荷が関与すると報告されています。また本態性高血圧のみならず、腎実質性高血圧や腎血管性高血圧などの二次性高血圧からも加速型―悪性高血圧は発症します。加速型―悪性高血圧の発症や臓器障害の年代を推移してみると、降圧薬の普及、社会・生活環境の改善などにより、近年その発症頻度は減少しています。しかし、2000年以降の米国での入院における統計では本症の発症頻度の減少は認められていません。一方、わが国の同一施設での検討に着目すると、年代の推移と伴に本症の発症時の眼底所見、左室の肥大、腎機能障害などの臓器障害の程度は軽少となっています。さらに英国での検討では、年代の推移と伴に本症を発症した人の5年間の生存率は32%から91%と著しく改善しています。これは発症時の腎機能障害の程度が5年間の死亡・透析の予後予測因子になっていたためと解析されています。一方、本症を発症後、平均5・6年の経過で31%の人が末期の腎不全に至るとの報告もあり、依然として腎臓の予後はよくありません。このことは本症を発症直後のみならず長期的な血圧の管理が重要かつ必要であることを示唆しています。本症の治療に関しては、本症は高血圧切迫症(血圧は高度のレベルにあるが、臓器障害の急速な進行がない)として扱われている現状がありますが、細胞脈の病変が本症により進行する病態であり、高血圧緊急症(血圧が高いだけでなく、脳・心・腎・大血管などの臓器の急性の障害が生じ進行する病態)に準じて治療されるべきとされています。治療に際しては、高血圧の病歴が長い人が多いため、急速な降圧は重要臓器の虚血をきたす危険を伴うため、24時間での降圧は拡張期血圧100〜110Hgまでにとどめ、服用していただく降圧薬(本症は多くの場合、経口薬で治療可能なため)は少量から開始し、特に腎臓の機能の悪化に注意しながら降圧していくこととされています。そして緩徐に個々の人の病態に応じた血圧にむけた降圧をおこない、降圧目標に到達した場合はそれを長期的に維持することが重要です。加速型―悪性高血圧は放置すると生命予後の不良なものです。高血圧に罹患されている人はその発症に留意し、毎日の家庭血圧の測定などをおこなうことが必要と考えます。