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運動誘発喘息

表題の喘息患者さんの多くは運動終了の数分後から一過性の気道収縮を来して60分以内に自然に回復します。気管支収縮消退後は最大4時間ほど収縮に対して不応(不応期という)となります。このように運動の数分後に喘息の増悪や気管支の収縮を生じることを、運動誘発喘息(EIA)あるいは運動誘発気管支収縮(EIB)と呼びます。多くの小児喘息患者さんと半数以上の成人喘息患者さんは運動時の喘息状態の悪化を自覚していることが推察されています。実際の運動では水泳では生じにくく、ランニング特に短距離走の繰り返しや中距離走特に冬季の運動で生じやすいという報告があります。これらのEIBの機序としては、気道内の温度の急激な変化や気道の水分喪失に伴う浸透圧の上昇が刺激となり、各々の炎症性メディエーターが遊離され、その結果気道の収縮が引き起こされると推察されています。EIBの診断はその人の最大酸素摂取量、最大心拍数を予測しそれをもとにした運動後の呼吸機能検査より診断することがおこなわれます。しかしこれは実際の臨床の場面では実用的ではなく、運動後の咳唽や呼吸困難感、喘息などの問診で診断することが多くおこなわれます。EIBの予防には、短時間作用性吸入β刺激薬(SABA)、ロイコトリエン受容態拮抗薬(LTRA)、クロモグリク酸ナトリウム(DSCG)などが用いられます。この中ではSABAが単剤では最も気管支収縮抑制作用があり、頓用での使用の有用性が高いため第1選択薬としてあげられています。
使用方法は運動の5〜20分前に使用(吸入)することです。効果は2〜4時間持続します。LTRAは内服薬です。SABAの効果には及びませんが、気道収縮抑制作用と炎症抑制作用をあわせ持ちます。運動の2時間前の内服で効果は24時間持続します。(DSCGは略)。EIBは喘息の病態を伴うことが多いため、喘息の管理と同様に吸入ステロイド薬(ICS)などの長期の管理薬を十分に使用することが必要となります。運動直前のSABAの単回の使用とICSなどの長期管理薬による喘息のコントロールがEIBの管理予防に重要です。薬物以外では、EIBが生じた後は前述のようにEIBの不応期となり気管支収縮が生じにくくなるため、それを利用して予測されている運動あるいは競技前のウォーミングアップをすることが効果的で推奨されます。その他では運動時のマスクの着用、加湿も効果的となります。話はやや飛躍しますが、国際的なアスリートが非競技者に比べて高い有病率で喘息を発症することはご存知でしょうか?これはアスリート喘息と呼ばれ、わが国のオリンピック選手の喘息有病率は約10%強とされています。アスリート喘息の病因・病態は基本的にはEIBと同様なのです。診断は同様に症状から呼吸機能検査などでおこないます。治療はEIBに準じておこなわれますが、世界アンチドーピング機構が使用可・使用禁止とする薬があり、それにそった薬を使用することとなります。このあたりは複雑になるので説明ははぶきます。
要はアスリート喘息はEIBと同様ですよということを知られておかれたらと思い記載しました。以上今回は運動誘発喘息に関して説明しました。