お知らせ

動脈硬化性質疾病発症のリスク因子(分かっているようで深くは分かっていない!)

@加齢・性差・・・年齢が上がるに従って心筋梗塞など動脈硬化性疾患の発症や死亡のリスクは増加し、加齢は他のどの危険因子よりも強く動脈硬化性疾患の発症や死亡のリスクを高めます。
たとえば心筋梗塞では、どの時代においても女性の心筋梗塞死亡率は男性よりも低いです。しかしそれによる死亡率は60歳代から上昇し、70歳代以降で特に増加しており、したがって高齢女性の動脈硬化性疾患のリスクは決して低くはありません。脳梗塞では死亡率(人口10万対)は男女の差はほとんどありません。年齢別死亡率をみてみると、90歳代までは女性の死亡率は男性より低いですが、100歳以上では女性の死亡率が男性より高くなります。性別よりも加齢の影響の方が大きいとされています。女性の動脈硬化性疾患のリスクが低い原因としては、エストロゲンによる作用や女性の特有のライフスタイル(妊娠、出産、育児)が関与していると考えられています。

A慢性腎臓病・・・慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全だけでなく、総死亡や心血管死亡の高リスク状態です。CKDではeGFR(推算糸球体漏過量)が低いほど心血管疾患発症リスクが高くなります。eGFR低置と心血管疾患発症の関連は、男性では心筋梗塞が、女性では脳梗塞の発症が顕著に関連するとの報告もあります。CKDで心血管疾患発症リスクが高まる機序として、CKDでは血圧、脂質、糖代謝などの心血管疾患発症リスクの併存頻度や程度が増すことに加えて、進んだ病期ではリン、カルシウム代謝異常などの危険因子の関与が加わることが考えられます。更に腎機能の低い人ほど心血管疾患発症の生存率が低くなるとされており、その発症予防の重要性はより高くなります。ただし動脈硬化性疾患の危険因子の関与の程度は腎機能によって変化します。たとえば、脂質のLDL-Cでは動脈硬化性疾患病の関連はeGFRが低いほど弱くなり、eGFRが15ml/分/1.73㎥末期では有意な関連は認められなくなります。そのためCKDでは早期から脂質の管理は重要です。

B冠動脈疾患の家族暦・・・冠動脈疾患の家族暦、特に第1度近親者(親、子、兄弟、姉妹)の家族暦、早発生(発症年齢:男性55歳未満、女性65歳未満)冠動脈疾患の家族暦は冠動脈疾患発症の強い危険因子となります。そのうち特に早発性冠動脈疾患は高リスクとなり注意が必要です。家族暦に関する考察では従来の危険因子(高LDL-C、低HDL-C、高血圧、糖尿病、喫煙)には遺伝的原因に加えて、同じ家庭内で過ごすことによる環境の累露が影響することがあげられています。
すなわち家族暦には既知の遺伝的および環境的危険因子が含まれているとの考察になります。

C飲酒・・・多量飲酒が動脈硬化性疾患の危険因子であることは明らかになっています。その影響は疾患によって異なります。たとえば脳血管疾患では、脳出血では非飲酒者が最も低く、アルコール摂取量の増加によってその発症・死亡率は直線的に増加します。一方脳梗塞では、非飲酒者よりも少量飲酒者において、発症死亡率が最も低いという結果が種々報告されています。(UもしくはJカーブ現象)心筋梗塞においても飲酒者は非喫煙者に比べ発症・死亡率が少ないことが示されています。心筋梗塞による”UもしくはJカーブ”の機序としては、飲酒によるHDL-Cの増加が考えられます。しかしHDL-Cが90mg/dl以上の高値になると動脈硬化性疾患による死亡は正の関係で増加し、特に飲酒者ではそれが明らかとなっています。したがって飲酒者の高HDL-C血症には注意が必要です。また多量飲酒では高トリグリセライト、インスリン抵抗性などを介して動脈硬化を惹起し、”UもしくはJカーブ”は消失します。そして慢性的な飲酒でなくても不規則な多量飲酒(ビンジ飲酒量→男性では純アルコール換算で70g、女性では56gを2時間以内に飲酒すること)は動脈硬化性疾患のリスクを増加させることが指摘されています。飲酒量と全死亡の関係は、Jカーブの関係を示すことがこれまでに多く報告されています。しかし近年の国際的な研究では少量飲酒者における死亡率低下や平均余命の延伸はみられないという報告がされてきています。これは注目すべき点です。したがってこのような結果から動脈硬化性疾患の予防などには、従来の方針(純アルコール換算で25gまでとする)に加え、できるだけアルコール摂取を控えることが推奨されています。

D冠動脈疾患の既応歴・・・冠動脈疾患の既応のある人は、既応のない人と比べて心血管疾患の発症リスクが高いことは従来より明らかにされています。約2〜4倍の発症率の高さが報告されています。とくに急性冠症候群(以前のWebで記載)における冠動脈疾患発症リスクは至適内服治療後でも高く、さらに動脈硬化性心疾患の発症リスクも高くなることも明らかにされています。

E脳血管疾患の既応・・・脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の人では発症直後には心筋梗塞にくらべ脳卒中発症リスクは非常に高まります。(発症1年以内では約10倍以上の発症の差の報告が多い)また慢性期脳梗塞患者さん(発症1ヶ月以上の報告が多い)においてもの脳卒中の再発リスクは心筋梗塞発症リスクにくらべ、その差はやや小さくなるものの高まります。つまり急性期は脳卒中の再発リスクが高くなり、慢性期は脳卒中再発リスクおよび冠動脈疾患の高リスクであるということです。また冠動脈の動脈硬化所見は、心血管疾患の独立した危険因子となります。これは頚動脈のIMT(内膜・中膜腹合体肥厚度)の肥厚が脳梗塞や冠動脈疾患の優位な発症リスク因子であるということです。

以上、今回は知られているようで知られていない動脈硬化性心疾患の発症リスクに関して説明しました。