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急性心膜炎とは

心膜炎とは感染症や膠原病などの自己免疫疾患、悪性疾患などを契機に心外膜に炎症を生じ心膜液の増加や心筋炎の合併など様々な症状や病態を呈します。16〜65歳の男性で発症頻度が高く、胸痛患者の約5%をしめるとされています。心膜炎の原因の多くは突発性ですが、原因が特定されている人では約60%がウイルスなどによる感染症、10%弱が自己免疫疾患、5〜7%が癌の関連によると報告されています。近年では不整脈治療でおこなう心臓カテーテルアブレーションや開心術に関連した術後心膜炎症候群の増加が認められます。心膜炎は発症の経過により急性心膜炎(症状や微候が発症から1〜2週間以内のもの)、頻発性心膜炎は(心膜炎が寛解することなく4〜6週間から3ヶ月未満継続するもの)、再発性心膜炎(初回の心膜炎発症後4〜6週間以上寛解した後に心膜炎が再燃したもの)慢性心膜炎(3ヶ月以上寛解することなく心臓炎が持続するもの)に分類されます。心膜炎の診断は次のようになります。胸痛、心膜摩擦音、特徴的な心電図の変化、心膜液の貯留のうち2つ以上満たすもの。心膜炎の胸痛は吸気、咳や仰臥位で増悪し、座位や前屈の姿勢で改善する鋭い痛みで、心膜炎の人の85%〜90%以上で認めます。心膜摩擦音は医師が聴診で聴取します。33%以下の人で聴取されます。心電図変化は診療所で心電図をとることでわかりますが心電図変化の出現する人は60%程度とされています。
心膜液貯留は心エコーやCTで評価できます。胸部x-pは心膜液が300ml以上貯留しないと心拡大は認めないため、心膜液貯留の診断には不向きです。心膜炎の人の60%以上で認められます。また心膜炎の人は心筋炎を合併することもあり、心膜炎の炎症の程度の把握も兼ね血液検査の施行も推奨されます。これにより心膜炎と診断された人は、外来通院で治療が可能なのかあるいは入院による治療が必要なのか、つまり重症化するリスクを評価される必要があります。心膜炎の重症化のリスクは38℃以上の発熱、亜急性の経過をとっている、多量の心膜液の貯留、心タンボナーデ(後に説明)、心筋炎の合併、外傷、免疫抑制状態、経口の抗凝固薬の服用、とされており1つでもあてはまれば入院による治療が推奨されます。また重症化リスクに該当しない人でも、心膜炎に対する治療を1週間おこない、治療に対する反応が乏しい人では入院の上での治療が推奨されます。一方重症化リスクを認めない人では、外来通院により治療経過をみながら治療がおこなわれることになります。心膜炎の治療は抗炎症薬の服用と運動の制限を第一におこないます。抗炎症薬としてはアスピリンもしくは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)にコルヒチンを内服することになります。これらの薬に治療抵抗性の人もしくは服薬が禁忌な人などには低用量のステロイドホルモンの内服が推奨されます。運動の制限は症状が改善し、炎症所見、心電図、心エコー図所見が正常化するまでは継続していただきます。特にアスリートの人では心膜炎治ユ後も少なくとも3ヶ月以上の運動制限が必要となります。再発性心膜炎の人や頻発性心膜炎の人では前者ではユルヒチンの長期服用を心膜炎の治療に追加し、後者では抗炎症薬を初回服用量まで増量し、鎮痛薬の服用も検討されることになります。心膜液の貯留を認める人では貯留は約60%が原疾患の影響と考えられるため、原疾患の治療をされることが重要です。たとえば中等量から多量の心膜液貯留は結核性心膜炎、癌性心膜炎や細菌性心膜炎で多くみられるため、それに対する治療をおこなうということです。突発性などの心膜炎の人では抗炎症薬の服用など推奨されている心膜炎の治療をおこなっていただきます。しかし多量の慢性的な心膜液貯留や、薬物治療に反応なく亜急性に心膜液が貯留し、心タンポナーテのリスクの高い人では予防的に心膜液のトレナージ(抜水)が考慮されます。心タンポナーデとは心膜腔内の心膜液貯留により、心膜腔の内圧が心室(拡散期)圧を上回り心室への血液充満が障害され、それにより心拍出量が低下し、重症な人ではショックとなることです。そしてさらに心膜液のドレナージ後も多量の心膜液貯留を再度きたす人や、心タンポナーデを繰り返し発症する人では心膜の切除術が考慮されます。急性心膜炎を発症した人の長期的な予後は一般的には良好とされています。ただし腫瘍性、結核性、細菌性の心膜炎の人は心タンポナーデの合併リスクは高くなります。突発性もしくはウイルス性急性心膜炎の人では1%程度、膠原病などの自己免疫性疾患や癌関連の急性心膜炎の人では2〜5%、結核や最近感染の急性心膜炎の人では20〜30%程度で収縮性心膜炎へ進行するとされています。吸縮性心膜炎とは心膜の慢性の炎症の結果、心膜の繊維化、肥厚、石灰化、ゆ着などの変化が生じ、心室の拡張制限をきたし、心拍出量低下も加わり心不全をきたす疾患です。再発性心膜炎の発症率は15〜30%とされていますが、初回にユルヒチンの服用がなされなかった人では、再発率が50%と高いことが報告されています。
以上、急性心膜炎について概説しました。近年新型コロナウイルス感染の合併症として心膜炎が注目されていることを最後につけくわえておきます。