お知らせ

職業性喘息

職業性喘息とは特定の労働環境で特定の職業性物質に曝露されることにより発症する喘息と定義されます。わかりやすくいうと職場で取り扱う物質が原因となる喘息ということです。既存の喘息が職業性曝露によって増悪する喘息は「作業増悪性喘息」といいます。これもわかりにくい表現ですが、要はもともと喘息があり職場環境によりもとの喘息が悪化するものです。そしてこの両者をあわせて「作業関連喘息」といいます。再分化するようになりますが、職業性喘息は職場の物質が原因となるアレルギー性喘息である「感作物質誘発職業性喘息」と刺激物質の吸入後に発症した喘息である「刺激物質誘発職業性喘息」からなります。後者には濃度の高い刺激物質を単回吸入曝露した後に、数時間以内に喘息症状が生じ、数ヶ月間も症状が持続する、状態のやや重篤な反応性気道機能不全症候群と呼ばれるものも含まれます。
(病名などは覚える必要はなく、これらの状態の喘息の出現があれば医師を受診されて下さい)
職業性喘息の有病率は成人発症喘息のおおむね10〜15%程度とされており、決してまれな喘息ではありません。有病率の高い職業は塗装業(化学物質が原因)、パンや製麺業(小麦粉、そば粉など)、医療従事者、特に看護師(天然ゴム(ラテックス))、動物や植物を扱う仕事(動物の毛、ふけなど)、溶接業(金属)、木材加工業(木材粉塵)、食品加工業などです。
職業性喘息の診断は、御自分の喘息の発症を詳細に観察することです。たとえば症状が休日、特に長期休暇で改善し、就労日には悪化する場合には職業性喘息の可能性は高くなります。(就労日と休日で症状に差がない場合は可能性は低いです。)アレルギー性鼻炎や結膜炎がある人が多いのも特徴の一つとなります。呼吸の気流の制限を評価するためにおこなうピークフローが休日、特に長期休暇で改善し、就労日に低下することも同様に診断に有用です。それらをもとに気道過敏性試験、血液検査、喀疾検査、呼気中の一酸化窒素濃度の測定などを診療所で組み合わせておこない診断されることになります。職業性喘息の治療は感作誘発職業性喘息では原因物質からの回避が基本となります。そして早期に喘息の治療をおこなうことです。(一般喘息と同様治療)原因物質が特定された場合は、アレルゲン免疫療法が有効な場合もあります。(アレルゲンが入手可能な場合)刺激物質誘発職業性喘息と作業増悪性喘息では、職場環境の改善や作業する人の防護具の装着により原因物質の曝露の減少をおこない、かつ十分な喘息治療をおこなうことが必要です。しかしこれらの職業性喘息はアレルゲンの完全な回避をおこなっても、症状や呼吸機能の低下は数年にわたって残存しうり、喘息が寛解する人はその3分の1に限られるとされています。喘息診断時の呼吸機能、原因物質への曝露期間、診断時の年齢が予後規定因子となります。すなわち早期の診断と早期の治療と対策が重要なのです。職業性喘息の予防は吸入物質の完全な除去が優先されますがなかなか困難なことを多く認めます。感作性がなく喘息の発症原因とならない代替物質への変更や作業場の換気システムの改善、職場の配置転換、呼吸保護器具の使用などをされ、曝露軽減に努められることが現実的となります。
以上、職業性喘息は決してまれな疾患ではなく、治療も職業が関係し困難なことも多く認めます。しかし診断された人は早期の治療が必要です。ご承知下さい。