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慢性腎臓(CKD)の運動療法

以前のWebでは、循環器疾患と運動療法について記載しました。今回は心腎関連である慢性腎臓病の運動療法について解説します。かつては腎臓病患者さんには「安静にしてもらう」ことが治療の常識となっていました。しかし近年では慢性腎臓病(CKD)患者さんの治療は「運動制限から運動療法へ」と大きく逆の転換をしています。順に説明していきます。日本のCKD患者さんは1330万人で、国民の8人に1人が罹患する国民病となっておりしかも70歳代の3人に1人、80歳以上の人では2人に1人の人がCKDとなっています。CKDの人は早期老化モデルの典型であり、暦年齢よりも老化が早く、フレイルやサルコペニアの割合が極めて高くなっています。これはCKDの進行につられてみられがちな食欲不振や食事制限による栄養摂取不足に加え、糖尿病や心血管疾患などの併存疾患、またそれによる代謝・内分泌的異常が大きな原因であり、かつ発症に関与しているのです。
CKDの人におけるフレイルは、透析、入院、死亡の独立した危険因子となります。そして透析をしている人では、透析による栄養素の喪失などによりサルコペニア、フレイルを非常にきたしやすく、感染症、心血管疾患、虚弱、抑うつなどの合併症を引き起こしやすくなります。一方これらの合併症がサルコペニア、フレイルを増悪させる要因ともなるのです。またCKDの人では日常生活動作(ADL)の低下や運動不足も多くみられます。運動不足はフィットネスの低下やサルコペニア、フレイルを引き起こし、CKDの進行、死亡率の増加につながります。さらに運動不足は高血圧、糖尿病、脂質異常症などを不良な状態にし、直接あるいは発症や酸化ストレスなどを介して間接的にも死亡率を高めることになります。
CKDの透析に言及すると、保存期のCKDの人ではCKDの進行に伴って、心血管疾患の発症率は加速的に高まり、末期腎不全に至るよりも心血管系の合併症で死亡する人が多くなります。特にサルコペニア・フレイルにより歩行速度が遅く、6分間での歩行距離が短く、握力が弱い人では死亡率が高くなります。
したがってCKDの人には、リハビリテーションや運動療法が必要となるのです。しかしここでCKDの人が運動療法の前に知っておく必要があることを記載します。まず腎臓は安静時には心拍出量の1/5の血液供給を受けており、組織単位体重あたりの血液流量は他のどの臓器よりも多いです。しかし運動時には、筋肉、心臓、肺への血液分配率が高まるために腎血流量(RBF)は低下します。そして激しい運動時にはRBFは50〜75%も低下します。したがってCKDの人が強度の高い運動をおこなうと腎機能障害や腎病変が増悪する危険があるということです。一方CKDの人が軽強度や中強度の運動をおこなった場合は腎機能は悪化せず、むしろ改善するという多くの報告や、運動療法の効果は種々報告されています。それは透析している人でも明らかにされています。たとえば運動耐容能の改善、体蛋白やエネルギー源(体脂肪)の貯蔵量が減少しておきる低栄養状態(PEW)の改善、蛋白質の異化の抑制、QOLの改善などです。それでは本題の運動療法の実際について記載します。保存期CKDの人に対する運動療法は標準的には週に3〜5回、1回に20〜60分の歩行、サイクリング、水泳などの最大酸素摂取量の40〜60%、すなわち中等度あるいはBorg指数11(楽である)〜13(ややきつい)での有酸素運動が中心となります。ジョギングやランニングは推奨はされません。さらにサルコペニア防止のためにレジスタンス運動も重要となります。レジスタンス運動は週に2〜3回1-RM(1回はおこなうことはできるが、それ以上は無理な筋力運動)の65〜75%の筋力増強運動を10〜15回を1セットとし、その人の運動体容能に応じたセット数を大筋群を動かすために8〜10種類の異なる運動でおこなうことが推奨されます。また外傷防止のためのストレッチ(柔軟体操)をおこなうことも重要です。
しかし低体力の人でこれらの運動が困難な人では、1回に3〜5分程度の運動から始め、その人自身の運動耐容能に基づいて、時間をかけて徐々に運動の回数や時間を増やしていくことも有効です。
透析期のCKDの人の標準的な運動療法は保存期CKDの人に対する運動療法と同様となります。ただし、透析中は透析後半の血圧低下を防止するために透析時間の前半で運動を終了する必要があります。
これらの運動療法はCKDの人の腎機能さらには全身的な効果より治療をかねての大きな役割が期待されています。もちろん前期したようにCKDの人の運動能力には個人差が大きいため、具体的な運動の実施は個々の人が身体機能を考慮しそのうえで設定するべきではあります。
以上、今回はCKDの運動療法について記載しました。