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高血圧 生活習慣の修正(認知が少ない項目を含め)

高血圧の人における生活習慣の修正は、ご存知のようにそれ自身による降圧効果が期待されるだけでなく、高血圧の予防の観点からも重要です。生活習慣の修正項目は次にお示ししますが、修正項目単独で得られる降圧度が必ずしも大きくありませんが、複合的な修正はより効果的であり、降圧作用の増強や降圧薬の減量につながることが大きく期待できます。したがってすべての高血圧の人に生活習慣の修正は必要です。今回はご存知と思われる修正項目の他、認知されていない可能性のあるものを含め説明します。
1. 食塩の制限:食塩の過剰摂取が血圧の上昇と関連することはよく知られていると思います。したがって減塩(食塩制限)は重要であり、我が国では高血圧の人は食塩6g/日未満が推奨されています。(6g/日未満の食塩摂取で有効な降圧が得られる)米国では3.8g/日の目標が提示されていますが、目標が達成できなくても1日に食塩摂取を2.5g減少させることにより降圧が得られるとしています。日本人の食塩摂取量は低下傾向にはあるものの、男性10.8g/日、女性9.1g/日が近々の実情であり、高血圧の人の摂取量も同様です。食事などに際し加工食品からの食塩摂取が多く、そのためその調整や最近増加している減塩食品の利用などをおこない、徐々に減塩目標に近づけることが方策の一つと考えられます。
2. カリウムなど栄養素の摂取:カリウムはナトリウムの血圧上昇作用に拮抗的に作用することより、野菜・果物などカリウムを多く含む食物の摂取により降圧効果が期待できます。カリウムの摂取による血圧の低下は平均4.25/2.13mmHgと有意であり、カリウムの摂取量と降圧度には用量依存性を認めます。カリウムの摂取と脳卒中の関係を検討した報告では約3.5g/日の摂取で脳卒中のリスクが最低となるとしています。WHOにおいても降圧と脳心血管リスクの抑制のために最低3.5g/日のカリウム摂取を推奨しています。我が国では3g/日以上を提唱していますが、現状は男性約2.4g/日、女性約2.2g/日と報告されており、さらに積極的な摂取が推奨されます。ただし慢性腎臓病の人においては摂取増加により高カリウム血症をおこす危険があり、それらの人は医療機関での定期的なカリウムの測定が必要です。
3. 適正体重の維持:我が国ではBMI(肥満指数)≧2.5kg/uを肥満と判定しています。高血圧発症のリスクからみるとBMI≦20kg/uを1とするとBMI25〜29.9kg/uで1.5〜2.5倍と推定されています。特にBMIが高いことや体重の経時的な増加(特に若年期から中高年にかけて体重増加が大きい)が高血圧発症のリスクとなります。逆に減量の降圧効果に目をむけると、体重1.0kg減少につき収縮期血圧で約1.1mmHg、拡張期血圧で約0.9mmHg低下すると推定されており、最近の研究では4kgの減量で-4.5/-3.2mmHgの有意な血圧の低下が報告されています。したがって肥満の人では3%以上の減量が降圧の効果より推奨されています。
4. 運動療法:有酸素の持久性運動療法の降圧は収縮期血圧で2〜5mmHg、拡張期血圧で1〜4mmHgが期待されると報告されています。血圧は一時的運動直後から4〜5mmHg低下し、その後22時間くらい降圧効果が継続し、 しかも急性運動後の血圧低下度は慢性運動後に得られる降圧度と相関すると報告されています。したがって運動は定期的に(できれば毎日30分以上)中強度(自覚的にはボルグ指数で12〜13のややきつい程度)の運動が推奨されます。レジスタンス運動を組み合わせることも有効です。ただし運動療法の対象となる人はU度の高血圧(180/110mmHg未満)以下の血圧で脳心血管病のない人となります。 V度高血圧(180/110mmHg以上)を超える人は降圧後に運動療法をおこなう必要があります。
5. 節酒:飲酒習慣は血圧の上昇の原因となります。飲酒制限により1〜2週のうちに降圧が認められ、降圧は約8/2mmHgとの研究報告があります。アルコール摂取量はエタノール換算で20〜30ml(ビール中瓶1本、日本酒1合、焼酎半合、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当)/日以下、女性ではその約半分の10〜20ml/日以下が推奨されていますが、最近の報告ではさらに少量の飲酒を死亡率の低下から推奨するものも増加しています。
6. 禁煙:喫煙が脳心血管病のリスクであることは確立しています。喫煙は急性効果として1本の紙巻きタバコで15分以上持続する血圧上昇を引き起こすことが示されており、慢性的な効果としては動脈硬化が報告されています。そしてこのことが高血圧の発症に深く関係すると考えられています。受動喫煙と高血圧の発症に関してもいくつかの報告があります。喫煙は癌や呼吸器疾患の独立した危険因子でもあり、禁煙は非常に重要です。ここからは本題のあまり説明されていない生活習慣の修正に関して記載します。
7. 寒冷:寒冷が血圧をあげ、冬期には血圧が高くなることは知られています。脳心血管疾患による冬季の死亡率は、暖房や防寒の不充分な場合ほど高くなります。したがって高血圧の人では冬季の暖房に配慮すべきであり、特にトイレや浴室・脱衣所などの暖房には注意が必要です。寒冷による血圧上昇に関しては、外界の気温と血圧は逆相関します。したがって高血圧の管理では寒い日また飲酒などには注意が必要です。
8. ストレス:ストレスと血圧の関係に関しては、心理的・社会的ストレスによって高血圧の発症が2倍以上高まることが報告されています。また高血圧の人は正常血圧の人と比べ2倍以上のストレスにさらされていたとの報告もあります。したがってその解消に何がよいかと証明されたものはありませんが(ヨガ、瞑想などがあげられているが)、ストレスの管理は大切です。
9. 睡眠障害:睡眠障害は長期的な影響として高血圧・心血管疾患・脂質異常症・糖尿病などの発症や体重を増加させます。短い睡眠時間や交代勤務、休日の少なさなどが複合的に関与して高血圧を含むメタボリック症候群の新規発症に関与するという報告があります。したがって睡眠に対する配慮は大切です。
10. 入浴習慣:湯温や浴室の温度、湯につかるかどうか、入浴時間、回数など入浴の習慣はさまざまです。入浴により中心血圧は低下します。また入浴や飲酒によって血圧の日内度動が大きくなり、夕食後と入眠前の入浴で血圧が低下することが報告されています。
11. 便秘:便秘に関しては脳心血管病発症や慢性腎不全の悪化に関する報告があります。高血圧との関係では便秘に伴ういきみは血圧を上昇させます。便秘予防のための食事・身体活動の実施、そして必要な場合は緩下剤の服用も必要となります。
12. 性行為:女性では性行為の血圧への影響は大きくないと報告されていますが、男性の場合、性行為は血圧を上昇させるので、脳心血管病を伴っている人の場合、刺激の強い性行為は慎むべきとされています。
以上、今回は高血圧の生活習慣の修正に関して認知されていないものを含め説明しました。