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頸動脈狭窄(治療・診断)

頸動脈とは大動脈からの血液を脳に送る動脈で頭の中に血液を送る内頸動脈と顔のほうに血液をおくる外頸動脈があります。今回は頸動脈(総頸動脈:内頸動脈と外頸動脈に分かれる前の頸動脈)から内頸動脈に生じる狭窄に関して概説します。一般に欧米諸国では全脳梗塞のうち、狭窄率50%〜99%の頸動脈狭窄症から脳梗塞が引き起こされる確率は15%とされており、わが国でも動脈硬化に起因する脳梗塞は増加しています。したがって頸動脈の病変を適切に診断し、そして治療に結びつけることは極めて重要となります。頸動脈の病変(狭窄)の診断には、症状が無症候性あるいは症候性であれ、まずは頸動脈ドプラー(カラードプラー)超音波検査を用います。
頸動脈が内頸動脈と外頸動脈に分岐した後の中枢側(頭側)あるいは末梢側(首側)の病変の評価が必要な場合は、超音波検査に加えてCTによる血管造影(CTA)あるいはMRIによる血管造影(MRA)の施行がおこなわれます。頸動脈が硬化(カルシウム沈着)によって狭窄度が評価困難な場合にはDSA(カテーテルを用いた血管撮影)の施行も考慮されます。今回の解説で記載する症候性頸動脈狭窄の症候性とは6ヶ月以内の脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)を伴う頸動脈狭窄であることは頭にいれておいてください。上記によって診断された頸動脈狭窄の治療目的は、脳梗塞やTIAの予防であり、その治療法には内科的治療と外科的治療である頸動脈内膜剥離術(CEA)、血管内治療である頸動脈ステント留置術(CAS)に分類されます。
内科治療には動脈硬化の進行を抑制する抗血小板療法に加え、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの危険因子となる病態に対する治療が含まれます。CEA、CASによる治療法に関しては今までの多数の研究報告ではCEAがCASによる治療にくらべ有意に良好な治療成績をあげています。これはCASによる治療で70歳以上の人に周術期(入院から手術、リハビリ、退院、社会復帰までの一連の期間をいう)合併症(死亡、脳卒中)がCEAによる治療をした人に比較して有意に高いことに起因していたことによるとされています。したがって症候性の狭窄率50%以上の病変に対してはCEAが標準治療であり、CASに対しては慎重な姿勢を多くの治療に関するガイドラインではとっています。
そして症候性の頸動脈狭窄で手術適応のある人には、手術の効果を最大限化するために症状出現後約2週間以内にCEAをおこなうことを推奨しています。ただし50%狭窄以上の症候性病変のうち、病変部位と同側の頸部手術の既応、頸部の放射線治療の既応、あるいは重症の冠動脈病変、重症心不全、慢性閉塞性肺疾患を有し、治療介入の適応のある人ではCASが考慮されます。狭窄率60%以上の無症候性頸動脈狭窄に対する治療はCEAが第一選択となりますが、手術の難易度は上昇するため施行には周術期死亡/脳卒中発生率が3%未満の施設での治療が求められます。また無症候性頸動脈狭窄に対するCEAとCASを比較した研究では、長期にわたる施行後の成績には双方における差は認めないものの、周術期でのすべての脳卒中、後遺障害を伴わない脳卒中、死亡ではCASで多い傾向にあったと報告されています。上記より無症候性でCEAがハイリスクと診断された場合には、病変の経過(自然歴)は良いために薬物療法を選択するのが適切と判断されることが多いことも事実です。
したがって現時点では、CASが周術期脳梗塞の発生率がCEAより高いことがほぼすべての研究で示されており、そのため標準治療としてCEAがCASより優れていることは明らかとなっています。しかしわが国では欧米の人くらべ頸動脈分岐部が高位である傾向にあること、CEAを多数の人におこなっている高度な医療機関が少ない事などにより、CASが選択施行されている人が多く(欧米とくらべ)なっています。一方、前記したように近年の内科治療の進歩はめざましく、狭窄率50%以上の無症候性頸動脈狭窄の人に対する内科治療に伴う同側の脳卒中の年間発症率は減少傾向にあります。したがって手術などの治療に伴う合併症の発症率が高いと、その有用性は失われ、内科治療を選択したほうが安全で治療効果は高いということにもなります。以上治療を箇条書きにすると、狭窄率50%以上の症候性頸動脈狭窄の人に対しては、非代償性心疾患や脳神経系障害のリスクが高くなる手術既応や放射線照射による組織のはんこん化などのCEA施行の禁忌がない人ではCASよりもCEAを選択し、症状出現後2週間以内にCEAをおこなう。ということです。 ただし狭窄率50%未満の人には手術はおこなうべきではありません。