お知らせ

心不全と貧血

心不全の人は、急性心不全、慢性心不全のどちらにおいても貧血(血中ヘモグロビン値 男性13.0g/dl未満(男性)、12.0g/dl未満(女性)を合併することが多いとされています。日本でおこなわれた研究では慢性心不全の増悪で入院された人の約60%、同病態で外来通院中の人の約35%が貧血を合併していたと報告されています。
貧血は急性、慢性、どちらにおいても心不全の人の独立した生命予後の規定因子となります。心不全における貧血の成因については、体液貯留による血液の希釈、慢性腎臓病の合併によるエリスロポエチン(赤血球の産生を促進する造血因子)の生成低下、骨髄の造血能の低下、鉄欠乏など多くの因子の関与が報告されていますが、その成因は特定されてはいません。心不全の人における貧血の治療に関しても、まだ確率された方法はありません。しかし鉄剤の投与、赤血球輸血、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)といった貧血改善療法が試みられています。これらについて説明します。鉄剤投与:心不全の人は貧血とともに、急性、慢性のどちらの心不全においても鉄欠乏を合併することが報告されています。したがって慢性心不全の人を対象に鉄剤の静脈内投与をおこなった試験がいくつか試みられています。それによると心室の収縮能の低下した人(HFrEF)では静脈内投与により心不全症状の改善、あるいは6分間で歩行できる距離の延長、さらに心不全悪化による入院の減少が示されいます。しかし生命予後の改善効果は示されませんでした。一方経口での鉄剤投与による鉄欠乏を合併した慢性心不全(HFrEF)の人に対する研究では心不全の改善効果は示されませんでした。心室の収縮能が維持された心不全(HFpEF)の人、急性心不全の人に対する鉄剤投与の有効性や安全性はこれまでに検討されてはいなくその効果は現在のところ不明です。また鉄剤投与にあたっては留意しなければいけないことは、鉄不足はエネルギ代謝の異常をきたしうるが逆に投与による鉄過剰は酸化ストレスや悪性腫瘍の形成にかかわります。したがって貧血の正常化を目指して安易に鉄の補充をおこなえばよいというわけではないということです。赤血球の輸血:血液中のヘモグロビン値が7.0g/dl未満で心不全の状態がやや安定している人においては、赤血球の輸血の妥当なことは報告されています。しかし現在のところ心不全の人への明確な赤血球輸血の基準となるものはありません。過度な貧血で心不全が悪化しており輸血によりその改善が期待される人に対して輸血の適応があるとしているのが現状です。
ESA:心不全に合併する貧血の成因の1つに、体内でのエリスロポエチンの産生低下があります。そこで、心不全の人に対するESA投与による効果を検討した研究がこれまでいくつかおこなわれています。そこれによるとESA投与により心臓の機能や運動できる能力が改善したことはしめされた一方で、慢性のHFrEFの人では全死亡や心不全悪化入院の改善効果は示されませんでした。またESAを投与された人に合併症として血栓塞栓症の発症が認められることがあり、そのため他の併存する疾患がありESA投与の適応がない心不全の人に対するESAの投与は推奨されていません。このように治療の冒頭で記したように心不全の人に対する貧血の治療は確立されていません。しかし生命予後の関点からも今後の大きな研究課題の1つとなっているのです。以上心不全と貧血について概説しました。