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慢性腎臓病 蛋白質摂取制限は有効か?(質問)

蛋白質を多く摂取すると腎臓における糸球濾過量(GFR)の増加(過剰濾過)の原因となり、また腎機能不全の人では、蛋白質の代謝産物である窒素化合物は尿毒症物質として蓄積することと関連します。そのため、蛋白質の摂取量を少なくすると過剰濾過に対する効果として、腎機能の低下かつ尿蛋白の抑制、尿毒症物質の蓄積の抑制から腎代替療法(人工透析、腎移植)の遅延につながる可能性があります。つまり末期腎不全への進展抑制に対して有効である可能性があります。そのため慢性腎臓病(CKD)の人に対しては、蛋白質の摂取量を制限することを推奨しているのです。このような効果は腎機能のより低下した人や蛋白質摂取量が少ない人で大きくなるようです。一方蛋白質の摂取制限をする場合、長期間・特に高齢な人では懸念される課題が存在します。第1には蛋白質の摂取制限により、一日に摂取するエネルギー量の減少がおこらないかという問題です。エネルギー摂取が減少すると、体の中で異化亢進が生じ、栄養状態が悪化するだけでなく、体蛋白の崩壊による窒素化合物の血中への増加がもたらされます。
したがって蛋白質の摂取制限をおこなう場合は、十分量の摂取エネルギーを確保することが重要となります。第2には栄養状態の悪化という懸念です。これは第1の課題とも関連します。腎機能の低下したCKDの人では、しばしばサルコペニア、フレイルといった病態が認められます。摂取エネルギーの低下は、その増悪因子として重要です。高齢者は食欲が低下していることが一般的であり、低蛋白質の食事によって食事摂取量が減少すると、さらにサルコペニア、フレイルなど低栄養・消耗状態の進展をもたらす可能性があります。したがってサルコペニアやフレイルを合併したCKDの人においてはその進展による重篤なリスクと末期腎不全進展リスクの問題を個々に考慮し、蛋白質摂取制限の優先あるいは緩和を検討することも必要となります。
第3はGFRの低下抑制効果は蛋白質摂取制限が適正におこなわれたときのみ認められたという報告があり、摂取制限の持続の課題です。蛋白質はうま味の成分とされており、その代替となり必要なエネルギーを確保できる食品の探索は食味や価格の面などの問題があり、人によっては困難な場合があります。これらの課題が存在するため、蛋白質の摂取制限は過一的におこなうのではなく、個々の人のCKDの重症度、サルコペニア、フレイルなどの栄養状態・消耗の有無などを評価し、制限の程度を判断することが必要です。したがって、CKDの人の蛋白質の摂取目標値は一律には設定されていません。また質問にはありませんでしたが、CKDの人の食塩の制限は必要です。今までの研究で、食塩摂取の制限は高血圧、蛋白尿の改善という点ではほぼ確立されています。末期腎不全への進展抑制効果は不明とされていますが、血圧の改善は腎機能低下の抑制には有益であり、腎不全進展抑制の効果は推察はされます。以上、質問に対してお答えしました。