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冠微少血管攣縮

冠微少血管攣縮(MVS)は冠微少血管で生じる攣縮(過剰な収縮)で、冠微少循環障害(CMD)の病態の一つです。冠動脈の血管床は心外膜の冠動脈および冠微少血管で構成されていますが、心外膜の冠動脈に有意な狭窄病変がなければ、心外膜冠動脈は全冠動脈の血管抵抗の約5%にしか関与しないとされています。このことは冠微少血管が心筋の血流調節の中心的な役割を果たしていることを意味しており、その調節機構の破綻は心外膜冠動脈の異常(狭窄あるいは攣縮)の有無にかかわらず、心筋の虚血をおこします。CMDとは冠微少血管の構造的・機能的変化、および血管外の要因により冠動脈の血流障害をきたし、最終的に心筋の虚血や心筋梗塞をひきおこす幅広い病態を含む症候群です。CMDは臨床的に4タイプに分類され、MVSはCMDタイプ1になります。
(CMDタイプ2〜4の説明は略)MVSは日本人を対象とした研究では、女性・中高年・低体重が臨床的な特徴として報告されており、エストロゲン(女性ホルモン)欠乏との関連性が示唆されています。MVSは心筋の酸素需要の増加を伴わない、供給低下により安静時の心筋の虚血をきたします。夜間・早朝の安静時のみに狭心症を呈することも多いですが、労作性の狭心症も呈すると報告されています。つまり狭心症を疑わせる自覚症状が安静時労作時を問わず出現するということです。これは就寝中から早朝に発症しやすい心外膜冠動脈に生じる冠攣縮性狭心症とは異なる点となります。欧米からもMVSは女性に多く安静時および労作時双方の胸痛を呈すると報告されています。MVSの診断は心外膜冠動脈に攣縮を生じさせる薬剤の冠動脈内への投与をおこないます。しかし心外膜冠動脈に有意な攣縮を認めなく、それにもかかわらず狭心症症状の出現や狭心症時に認められる心電図上の虚血性変化などの心筋の虚血所見や冠動脈の血流速度の低下を生じることで診断されます。MVSは単独で狭心症を生じる人もありますが、心外膜冠動脈に攣縮を生じる冠攣縮性狭心症に合併する人や、冠動脈の器質的狭窄病変に起因する急性冠症候群(以前のWebで説明)に合併する人などがあり、さまざまな虚血性心疾患と合併する可能性があります。心外膜冠動脈の攣縮とMVSが合併する場合は女性に多く、この場合典型的な狭心症症状に加えて30分以上続く胸痛の既往を有する場合が多いとされています。MVSの人の生命予後は悪くないものの、心筋梗塞を発症した人の報告例もあります。またわが国からの報告では、MVSは狭心症症状のある冠動脈に閉塞を認めない人の13.5%を占め、女性に限ってみると21.5%を占めることが報告されており、決して見のがしてはいけない病態とされています。以上よりMVSは虚血性心疾患全般にわたってその発症および病態に関与あるいは修飾していると考えられます。冠動脈疾患のある人は、MVSの存在を念頭におかれ、循環器専門医受診時に症状等を伝えることが肝要と考えられます。