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小児の高血圧

わが国の小児の高血圧の疫学研究を対象にした解析では、小児の高血圧の頻度は小児の約3%とされています。小中学生の血圧健診でも0.1〜3%に高血圧が見られるとされています。高血圧の診断における血圧測定は3回以上連続して測定し、安定した2つの測定値の平均値を採用します。そしてわが国の小児の高血圧の基準値は以下となります。

    収縮期血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg)
幼児   ≧120 ≧70
小学校 低学年 ≧130 ≧80
高学年 ≧135 ≧80
中学校 男子 ≧140 ≧85
女子 ≧135 ≧80
高等学校   ≧140 ≧85

そして高血圧の診断には、3回以上の異なる機会での血圧測定で基準値を超えることが必要となります。
しかし、上記基準値は煩雑なため、6〜11歳で120/80mmHg以上、12〜17歳で130/85mmHg以上という簡易な診断基準でも成人後の心血管病リスクをスクリーニングできるという報告もあります。血圧健診で発見される小児の高血圧は、ほとんどが本能性高血圧に該当する病態です。ただし年齢が低いほど、また血圧が高いほど二次性の高血圧を考える必要はあります。小児の二次性高血圧は腎臓に関係した高血圧が60〜80%を占めるとされています。小児の本能性高血圧は食塩摂取過剰など成人と同様の機序が存在します。また小児の肥満と高血圧は密接に関連し、肥満度が増すにつれ高血圧の有病率は高くなります。たとえば小学校高学年〜中学生の肥満者では3〜5%が高血圧で、正常体格者(0.5%)より明らかに多く存在します。この肥満と高血圧はそれぞれ高率に成人の肥満や本能性高血圧に移行するため、小児期に改善する必要はあります。肥満に関しては出生時の体重が軽く、その後肥満になることが、高血圧の進展に関連すると考えられています。(つまり低出生体重で腎臓のネクロン数が少ないのに肥満になることで高血圧を発症する)。小児および高校生における本能性高血圧の問題点は合併症(臓器障害)と成人本能性高血圧への移行です。合併症としては、心臓の左心肥大(左室心筋重量の増加)、頸動脈内膜中膜腹合体厚、腎障害(尿アルブミン排泄)、眼底の小動脈の変化などが報告されています。成人本能性高血圧への移行はさらに大きな問題です。中学時代の血圧と2年後の血圧を比較したわが国の研究では、中学生のとき高血圧だった人の約20%が依然として高血圧であり、同様に大学生を8〜26年後に調査した研究では、高血圧だった人の約45%が高血圧であったと報告されています。これらから小児の本能性高血圧は早期から積極的な対策を取る必要があります。そのためには早期からの生活習慣の改善が極めて大切となります。小児の高血圧の割合は上記した肥満、低出生体重そして睡眠障害、慢性腎臓病(CKD)などで大きくなるため、それを把握したうえで病態にそった予防的な食事・運動の管理をおこなうべきです。食事療法としては肥満に結びつく「どか食い」などの摂食行動の修正、そして成人と同様に血圧上昇に関与する食塩の過剰摂取の修正(減塩)が大切です。新生児期から減塩をおこなうと小児期の血圧の上昇は抑制されます。カリウムの摂取は成人同様に必要で、そのため野菜や果物の積極的な摂取、豆類や植物由来の食事や低脂肪食品の摂取は血圧の低下に関連します。小児における運動療法が血圧を低下させるとの明確な研究は得られていませんが、1週間あたり3〜5回、1回あたり30〜60分の中等度か強度の運動を推奨する報告はあります。また小児においても睡眠障害は高血圧との関連があるとされており、特に閉塞性睡眠時無呼吸はその程度が強いほど高血圧のリスクは強くなるため、その治療介入は必要です。小児の高血圧はまずはこれらの生活習慣病の修正(非薬物療法)で血圧を130/80mmHg未満あるいは高血圧の基準値の90%未満の管理を目指します。しかし生活習慣に対する非薬物療法が効果を示さず高血圧が続く場合、症候性の高血圧となった場合、薬物療法を必要とする二次性高血圧、臓器障害の合併、CKDや糖尿病の存在が認められた場合などは薬物療法の適応となります。薬物療法は血圧の正常化により合併症の進行の抑制、改善などの効果は認められており、その使用は有効です。 以上今回は子供(小児)をお持ちの方へ、小児の高血圧とはそしてその発症予防を目的に概説しました。