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腹部大動脈瘤 動脈硬化疾患の合併(高率な)

大動脈瘤とは大動脈の壁の一部が全周性、または局所性に(径)拡大または突出した状態です。腹部大動脈の正常径は一般に20mm(ちなみに胸部大動脈は30mm)とされており、壁の一部が局所的に拡張した場合(こぶ状に突出、嚢状に拡大)、または正常径の1.5倍(腹部では30mm)を越えて拡大した場合(紡錘状に拡大)に大動脈瘤と称します。腹部大動脈瘤(AAA)は瘤壁やその周囲の大動脈に動脈硬化病変が存在しており、冠動脈の動脈硬化病変に関連していると考えられています。手術適応のない小径のAAAに関する研究では、毎年3%の心血管関連による死亡と、全体として約45%の虚血性心疾患、約27%の心筋梗塞の合併を認めたという報告があります。またAAAを手術により人工血管に置換した後でも、動脈硬化性疾患の重篤な合併症が周術期に2〜8%の割合で発生することが報告されています。わが国においてもAAAの手術前検査で冠動脈の硬化性病変を45%に認めたという報告があります。したがってAAAがあると、効率に冠動脈の硬化を有しているだけでなく、一定の割合で治療の必要な動脈硬化性病変に罹患すると考えられています。さらに欧米での研究では冠動脈疾患を有する人は、有しない人とくらべAAAを約4倍の割合で認めるという解析があり、これらのことよりAAAは冠動脈疾患と高い相関性があると考えられます。AAAの危険因子には、加齢、喫煙、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、頸動脈狭搾、高血圧、高LDLコレステロール血症などがあり、これは動脈硬化性疾患の危険因子と共通しています。一方、糖尿病はAAAの抑制因子であったとする報告があり、動脈硬化性疾患の危険因子とは異なる点もあります。AAAの増大や破裂に関与する因子として欧米では拡張期血圧の上昇が報告されています。一方わが国での研究では動脈瘤の増大に高血圧の関与はあるが、動脈硬化性疾患の既往や血中コレステロール値とは関係性はないと報告されています。しかしAAAに対して、動脈硬化性疾患の危険因子をコントロールするために、高脂血症に対する薬(スタチン)、抗血小板剤、降圧剤を投与すると、AAAの人の生存率は改善するとされています。しかしこれらの薬は直接AAAの瘤径の増大や破裂は抑制しません。したがって生存率の改善はこれらの薬の投与で心血管合併症が抑えられることによる効果と考えられます。
上記などにより、AAAは冠動脈疾患の確率した危険因子とは言えませんが、心血管疾患に関連する高リスクな病態であると言えます。従ってAAAのある人は禁煙、血圧管理、運動の促進をおこなうとともに、積極的に動脈効果疾患の危険因子をコントロールされることが大事と考えられます。
以上、今回はAAAと動脈硬化性疾患の合併(高率な)に関して概説しました。