お知らせ

腎動脈狭窄(RAS)

腎動脈狭窄(RAS)は腎動脈内腔が狭少化(一般的には60%以上)し、腎臓への血流障害をきたす疾患です。
RASの90%以上は動脈硬化性であり、大動脈、冠動脈、など全身の動脈硬化の一環として発現します。わが国においては心臓カテーテル検査を受けた人の7%にRASを認めたという報告があります。(欧米では30%の報告)RASの病変の部位としては、動脈硬化性のRASは腎動脈の入口部から近位部1cm部位に多く、20〜30%は左右の腎動脈に認められます。RASは繊維筋性異形性(FMD)や腎動脈解離、外傷、疾患でも発生します。ここであげたFMDとは非動脈硬化性かつ非炎症性の小・中動脈疾患において内腔への血管壁の増殖を特徴とするもので、その原因は不明です。またFMDは腎動脈に多く認められますが、頸動脈など他の動脈にも発生します。そしてその82%は女性で、平均年齢は46歳、86%は高血圧を呈します。FMDの病変は腎動脈の中央部から末梢1/3の部位におこりやすいとされています。病態は腎動脈狭窄による昇圧系ホルモンの活性化による治療抵抗性・悪性の高血圧であり、脳心血管合併症や腎機能の低下を引き起こします。しかし一方では病変の自然の消退も報告されています。FMDからRAS一般にもどると、RASは自然経過は進行性とは限らなく、特に無症候性の人ではほとんどが病変が進行しないという報告があります。一方全身の動脈硬化の強い高血圧や腎機能低下などを呈する人では進行するという報告があります。RASのおもな病態は、それによる腎臓の血流の低下による腎機能障害とRASによる昇圧系のホルモンの活性化です。昇圧系ホルモンの活性で、心臓や全身の血管に変化がおこり、それにより血圧の上昇・増悪を生じます。RASの診断は超音波検査は低侵襲でスクリーニング検査として有用ですが、被検者の人の体型(肥満など)によっては診断は困難となります。その場合腎臓の機能の正常な人では造影剤を使用したCTでの血管造影やMRでの血管造影検査は有用となります。これらの検査で確定診断に至らない場合、あるいは臨床症状が疑わしい場合には血管の造影検査が有用です。RASの治療では、治療の目的は腎臓の機能の保護と、長期的な心臓血管合併症の回避です。そのため動脈硬化性RASの治療は、動脈硬化による脳心血管合併症の軽減が柱となります。治療としては薬物療法、そしてそれに腎動脈の狭窄部に対しての血行の再建を追加するかということになります。薬物治療では一方の腎動脈におけるRASに伴う高血圧にはACE阻害薬による治療は有効です。同様にカルシウム拮抗薬とARBも有効です。β遮断薬はRASに伴う高血圧治療に有効です。両方の腎臓のRASに対する明確な有効薬ははっきりしません。ACE阻害薬、ARBは血圧をさげるという点では有効と考えられますが、腎臓の機能の低下がおこりうるため注意が必要です。血行再建では、カテーテルを使用する経皮(経管)的腎動脈形成術(PTRA)と腎動脈バイパス手術があります。PTRAは動脈硬化性RASの治療において薬物治療のみと比べて有用であるということは、現時点では証明されていません。ただ薬物療法でコントロール困難な高血圧、RASによる心不全の既応、両方の腎動脈のRASによる進行性の腎機能障害の人に対してはPTRAが考慮されます。一方FMDの治療ではPTRA(特にバルーンカテーテルによる拡張)の効果は認められています。腎動脈バイパス手術は薬物療法の進歩により現在はほとんどされない傾向にあります。しかし腎動脈バイパスに使用される血管の開存率は有効で、手術前の高血圧が著明な人では腎臓の機能の回復が期待される傾向があるという報告もあり、手術のリスクの少ない人では手術の適応は残る可能性はあります。以上、今回は腎動脈狭窄の状態そして治療に対して概説しました。