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肥満症 診断に必要な健康障害

肥満症とは肥満(BMI(肥満指数)が25以上)に起因する健康障害を有するか、今後健康障害が予測される内臓型肥満を有する場合に診断されます。肥満と関連する可能性が示唆される疾患は多数ありますが、今回はその中でも減量により、予後改善効果が研究で実証されており肥満症の診断に必要な健康障害とされている疾患について説明します。
◎2型糖尿病:肥満と2型糖尿病発症の関連については数多くの研究報告があります。その中でBMIが上昇すると2型糖尿病の発症リスクは直線的に上昇し、BMIが2低下すると2型糖尿病発症リスクは27%低下するとの報告もあります。また欧米人ではBMIが30以上で2型糖尿病発症率は増加しますが、アジア人ではBMIが25程度でも2型糖尿病の発症率は上昇するとされています。これはインスリン分泌機能がアジア人では欧米人とくらべ低く、そのため肥満が軽度でも2型糖尿病が発症するとされています。肥満を合併した糖尿病の人では肥満改善を中心とした生活習慣の改善(食事・運動療法など)がまずは重要ですが、その効果が乏しい場合は減量効果の期待できる薬物療法の検討が必要となります。
◎脂質異常症:肥満と脂質異常症との関連では、BMIの上昇に伴いトリグリセライド(TG)は直線的に上昇し、HDL-コレステロールは直線的に低下する、総コレステロールとLDL-コレステロールは男性ではBMIが27.5〜29.9、女性ではBMIが25〜27.4で最高値となるとフラミンガム研究で示されています。またBMIと総コレステロール高値やLDL-コレステロール高値との関連と比べ、TG高値とHDL-コレステロール低値との関連はより強いことも同研究で示されています。脂質代謝の改善では体重1kgの減量で総コレステロールは1.9mg/dl、LDL-コレステロールは0.8mg/dl、TGは1.3mg/dl低下するとの報告があります。
◎高血圧:肥満に合併する高血圧には種々の発症機序が関与します。身体的にはBMIやウエスト周囲長・ウエストヒップ比と高血圧との関連は多くの研究で示されています。2000年前の米国での研究ではBMI<20を基準とした場合、BMI23〜24で1.8倍、BMI≧31では6.3倍と高血圧発症リスクが増加すると報告されています。肥満を伴う高血圧の人では、肥満を生じる疾患や二次性高血圧の合併を除外する必要はありますが、そうでない場合は減量を主とした生活習慣の修正がまずは必要となります。
◎高尿酸血症・痛風:血中尿酸値が7.0g/dlをこえると高尿酸血症と診断します。日本人男性の研究ではBMI>27で高尿酸血症の合併が増加することや、内臓脂肪蓄積型の肥満で尿酸産生の亢進がおこることが報告されています。高尿酸血症は痛風発作の既往や血中尿酸値が9mg/dl以上であれば薬物療法が必要となりますが、それ以外では減量などの生活習慣の改善で尿酸値低下の推移を確認することがまずは必要です。高尿酸血症では尿路結石を合併することも多く(特にメタボの人では)それに対する食習慣の修正も考慮されるべきです。
◎冠動脈疾患:高血圧・糖尿病・脂質異常症などの肥満関連疾患は冠動脈疾患発症のリスクとなりますが、BMIが冠動脈疾患の確固としたリスクとなるかは明らかではありません。日本人は欧米人とくらべBMIとは相関しない冠攣縮性狭心症が多いという背景があるからです。しかしJALS研究では男性ではBMIの上昇と心筋梗塞発症のリスクは相関し、減量により心筋梗塞の発症リスクが抑制されたと報告されています。
◎脳梗塞・一過性脳虚血発作:冠動脈疾患と同様に肥満関連疾患はその発症リスクとなるため、BMIと脳梗塞発症の関連は慎重な考慮が必要です。一方前記のJALSではBMIの上昇により脳梗塞のリスクが増加し、BMIの低下によりその発症リスクは低下することが報告されています。
◎非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD):明らかな飲酒歴がなく(ここではエタノール換算で男性30g/日未満、女性20g/日未満のこと)ウイルス性肝炎などの原因の明らかなものが存在しないにもかかわらず肝組織でアルコール性肝障害に類似した肝障害を呈するものと定義されています。要はアルコールによらない脂肪肝です。しかしこれには生命予後の良好なものから不良なものまであります。肥満を伴う場合、生活習慣の修正による減量がまずは必要となります。
◎月経異常・女性不妊:月経異常には原発性無月経(満18歳を迎えても初潮のおこらないもの)、続発作無月経(これまであった月経が3ヶ月以上停止したもの)がありますが、肥満女性に伴いやすいことは知られています。(排卵障害によることが多い)
月経周期が最も安定しているものはBMIは22〜23であり、BMI24〜25で月経異常の頻度は約2倍になり、BMI35以上では約5倍になるとされています。月経異常には肥満の改善が必要です。単純性肥満による無月経では最高体重から平均13.6%の減量で月経は再開すると報告されており、標準体重までの減量でなくても月経異常の改善は期待できます。
◎閉経性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)・肥満低換気症候群(OHS):OHSは肥満(BMIが30以上)と慢性の高二酸化炭素血症があり、睡眠呼吸障害を伴うもので、呼吸障害はほとんどがOSASです。肥満による睡眠呼吸障害は高血圧・脂質代謝異常・耐糖能異常の発症に関与します。中等度以上のOSASの治療は持続陽圧呼吸療法が第一選択であり、軽症(一部中等症を含む)のOSASでは口腔内装置も有効となります。しかしこれらの治療と並行して減量をおこなうことでOSASの改善はさらに有効となります。
◎運動器疾患:肥満症が膝関節・股関節・脊椎などの荷重関節の負担的要因となります。変形性膝関節ではBMI24〜27となるとBMI15〜22の人等とくらべ発症率は約2.3倍になるとの報告があります。また、平均BMI28の人達で4〜5kgの体重減量で重症度が約50%低下したとの報告もあります。
変形性股関節症・変形性脊椎症と肥満との関連は変形性膝関節症ほどは確立していませんが、前者ではX線所見とは関連はないが、症状とは関連がある。後者では肥満は脊椎関節の変形リスクを増すとされており減量は考慮すべきとされています。
◎肥満関連腎臓病:肥満関連腎臓病とは全身性障害を伴わない著しい肥満においてネフローゼ症候群と同等の蛋白尿を引き起こす病態です。血尿は認めないか軽症です。減量による耐糖能異常や高血圧の改善によって腎障害の進行が抑制されることが期待され、事実蛋白尿は改善されます。
以上、今回は肥満症と関連し診断に必要な11の健康障害について概説しました。肥満症の人はどのような健康障害を有しているかを自覚・認識し、そして特に減量によりその健康障害の改善を目指すことが重要なのです。