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高齢高血圧者の治療 その特殊性をふまえた留意点

高齢者の高血圧治療の目標は、生命予後の改善すなわち生活機能の維持または低下抑制を目指した治療が求められることは若年者における治療と同様です。そのための減塩、運動、減量などの生活習慣の修正(非薬物療法)は有用であり、積極的におこなうことは重要となり、それらをおこなったうえでの薬物療法となることも若年者と同様となります。
しかし高齢者が高血圧の治療をうける上では、高齢者はその特殊性を留意したうえで治療をうけることが必要となります。今回はそのことに関して説明します。留意点@転倒・骨折の予防に関連した留意点:高齢者の転倒・骨折は要介護者の10%強を占め、寝たきり要因となる重要な問題です。高齢者では少なくとも1年以内の転倒既往がある場合、その要因を検討して対応する必要があります。要因は内的要因と外的要因に分けられます。内的要因とは、本人の身体的要因で運動や移動能力にかかわる筋肉骨格系の低下や中枢神経系の異常、平衡機能にかかわる感覚・神経系の異常、起立性低血圧や不整脈などの循環器系の異常などです。外的要因はおもに住居などの住環境と関連します。その他に睡眠薬や向精神薬、抗ヒスタミン薬(アレルギー疾患などで使用される)による薬剤誘発性にも留意は必要です。降圧薬治療との関連では降圧薬治療を開始するときや降圧薬の変更時(特に増量時)には骨折リスクが上昇する可能性があり、留意は必要です。このことに関しては、高齢者が新規に降圧薬の服用を開始した場合、服用開始後45日以内の骨折発症リスクが、服用前あるいは服用開始90日目以降と比較して1.43倍と有意に高かったという報告があります。また高齢者本人が自分が骨粗しょう症になっていないかの評価をうけ、骨粗症である場合にはその治療をおこなうことも重要です。治療薬としては積極的な服用適応の疾患がない場合、サイアザイド系利尿薬が推奨はされています。A脱水や生活環境に対応した留意点:高齢者では各種臓器の予備能力が低く、血圧の動揺性が大きく、降圧薬の反応も増強しやすいことを多く認めます。したがって過度の減塩や脱水(下痢、発熱、夏季の発汗、食事摂取量の低下などによる)によって降圧薬の反応が増強し、それによる症状で体調不良や家庭血圧が低下した場合には、主治医への連絡をすみやかにおこない、降圧薬の減量や休薬の可否などの相談・対応をおこなうことが必要です。降圧薬の服用開始前に事前に主治医から説明をうけることが望ましいですが。諸種の事情で施設入所など生活環境の変化(施設での食事による減塩などを含む)に伴い血圧が変化することがあり、この場合も服用薬の減量、中止が必要となる場合もすくなからずおこるため主治医の密な診療が望まれます。B服薬管理上の留意点:降圧薬の服用の継続が低下する要因として、降圧薬服用に関する高齢者本人の理解不足、認知機能の障害、高齢による目をとおした機能やちみつな運動(薬剤の容器の開封能力など)の障害、併存疾患に対する薬を含め5〜6剤以上の多剤服用(ポリファーマシー)、服用時間などが複雑な薬、最近の服用薬の変更などがあげられます。これらに対する留意点としては服用薬の用法、薬の効果、副作用などの説明をくり返しうけ理解する、家族や介護スタッフの介入による服用をおこなう、複数の薬剤を服用時間による分別をおこない、それらを各々一包の薬袋の中にいれる(一包化という)、服薬数をなるべく少量にする(カ価のやや強い一剤か配合剤への変更など)。
服用法の単純化の可否の検討を主治医とおこない工夫することは重要です。
要は高齢者は上記の若年時期との体の病態生理的な変化を理解し、高血圧治療に関して留意することが必要となるのです。